未来軍部11
□なあ、アル。
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さらり、とそう返されて仕官は引き下がり、そして、手を高らかに上げた。
「撃て!」
そう短く命令すると、ボイルは激しい爆発音があるものと思っていたのだが、まったく音がしない。
「何をしているの!撃ちなさい!」
そういうが、仕官たちはまったく動かなかった。
「どうしたというの!」
目深に帽子をかぶっている男が、ぷい、とタバコを捨てる。
「っ!あなた、言われた仕事をしなさい!!」
そういいつつ、平手が飛んできたので、男は思わずその手をつかみとった。
「キレイなヒトが、すぐ殴るなんて、よくないぜ。あ、いや、ウチの司令官もすぐ殴るな。あんたより、百倍キレイだけどなっ」
「あなた、誰!?」「
「名乗るようなもんじゃねぇッス」
そう答えたにも関わらず、
「エネル大尉ではないか、いつ到着したのだ」
とまんまとロイが言ってしまい、
「大将ぉお…」
思わず、いつもの床に両手をつくポーズを取ろうとしてしまった。
「ど、どういうこと!?」
「こういうことでっす」
エネルがそういうと、そこにいた全員が目深にかぶっていた帽子を外した。
そして、つかつかと歩み寄ってきた、黒髪の男が、
「東方軍だとお気づきではなかったようですね」
くす、と口角を吊り上げた。
「っ!マーカーなの!?」
「え、おまえら知り合い?」
「昔、すこし…ですがね」
「自分の部下を知らないトップに、中央司令部を任せるのはどうかと思うぜ、無能大総統!かっこ次期!」
エドワードが執務室から、窓を突き破るように現れた。同時に、階段のようなものを錬成して、駆け下りてくる。
エドワードが現れると、一同がびし、と敬礼をした。
「おいおい、次期大総統がここにいるのに、今頃敬礼か、おまえの部下たちは」
「躾が行き届いてるんで」
エドワードはにやり、と笑った。
「オレはあんたが大嫌いだ。アルの目とヤケドが治らなかったら、地獄の底にまで行って殴り倒してぇ!だけど、そんな時間が惜しいくらい、アンタとはかかわりたくねぇ。全権、無能次期大総統に任せる」
それだけ言うと、エドワードはくるり、と踵を返した。
つかつかと歩いて行ってしまうエドワードに、エネルとマーカーがついていく。そして、振り向くと、
「東方軍、退け!助かったぜ!ありがとな!このお礼は…いつか、する!」
それだけ言うと、「期待してませんけどね」と誰かが呟いた。そこで、あはは、と笑い声が漏れる。
「覚えとけよ、パーソン少尉」
「ひっ!じょ冗談ですっ!!」
慌てた少尉に、エドワードはにしし、と笑って再び踵を返した。
残されたボイルとロイはしばし呆然としていた。
「…欲しいだろう。ああいう、存在」
ぎりぎりと唇を噛み締めているボイルに、ロイはやや冷たい視線を向けた。
「完全に負けている。貴方とは付き合いも長い。退役を進めるが、希望なら軍法会議書に送ることも考えよう」
「っ…!この私が、負けた、だと…!?あんな、若僧に…!?戦争も経験してない、生ぬるい国家錬金術師に…!」
「それは、貴方が知らないだけだ」
そういうと、ロイは踵を返した。そして、遠くに向って手を上げると、部下が走ってきた。
小さく指示をして、崩れ落ちたボイルの両腕を二人の部下が捉え、連れて行った。