未来軍部11

□ワン オブ サウザンド
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「何、にやにやしてるの…」
 翌朝、思わず兄を見ての一言だった。
 場所は、司令部の執務室。ぎしぎしとデスクの椅子を鳴らしながら、新聞を読んでいたエドワードは、ちらり、とアルフォンスを上目で見る。
「これが笑わずに居られるか!?」
 エドワードが差し出した新聞の見出しには、「華麗なるテクニック!怪盗サイレーン再び!?」と書かれてあった。
「…だけど、『怪盗は二人いると思われ――』っていう件もあるんですけど。一人は長身、一人は女性?っていう見出しは無視?」
 アルフォンスが思わず吹き出したときに、エドワードはむす、と口を尖らせた。
しばし読みつつ、アルフォンスの笑いが止まらないので、いらだったエドワードが
「うっせー!!」
と投げたものは、紅く輝いた宝石だった。
「って!これは投げちゃいけないでしょ!?」
 ぱし、と受け取って見たものは、まさしく昨夜怪盗騒ぎになった、宝石だった。
「だってニセモンだし」
「…イミテーションって、こと?」
「おう。宝石でもなんでもない。ニセモン。返しといて」
「簡単に言ってくれるよね」
「簡単じゃん。捜査の結果見つけたって言っとけ」
「いうけどさ…」
「あ、ガネットよんで」
 と言った瞬間、ガネットが入室してきた。
「昨日はご苦労さん!おまえの一発、キいたぜ〜」
「ありがとうございます」
 最新の警報装置があるため、一瞬で終わらせなければならない。しかも、防弾ガラスを撃って、銃弾で空いた穴にくぐらせるように、もう一発を打ち込む必要があった。それをやすやすと、ガネットがクリアしてくれ、そこへエドワードとアルフォンスが忍び込んでこの宝石を手にしたのだ。

「さすが、いい銃です。ワンオブサウザンドと呼ばれるだけのことはあります」
 ガネットは、そっと拳銃をエドワードのデスクに置いた。
「ゴホウビに、ベティちゃんやるよ」
「えっ!?だって、それの所有者は、准将ですよね!?」
「うーん。でもさ、やっぱりいいものは、使ってくれるヤツのほうがいいんじゃね?定期的に手入れされてるだけのお飾りより、毎回使われたほうが、ベティも嬉しいって」
 アルフォンスも、加勢するかのように
「前みたいに、デスクにぽいっと入れっぱなしだったそれが、今度は図書館に飾られては、銃としては、たまったもんじゃないと思うんですよ。使ってやってください」
「あ…ありがとうございますっ!!」
 ガネットは九十度に腰を曲げて、お礼を言うとそっとその銃を持ち上げた。
「本当にいい銃です」
「一般軍人と同じ、大量生産の銃なんだけどな。その一丁がオレに当たるなんて、すごい偶然。それは、おまえの近くに来たかったのかもしれないぜ」
「大体ホルスターすら装着しない司令官には、不必要だしね」
「うるせーよ」
 エドワードが口を尖らせたので、ガネットはくす、と口角を吊り上げた。
 そのあとすぐに、司令官と副官の痴話喧嘩が始まったので、ガネットはそっと司令官執務室を出て、大部屋の自分のデスクに座った。

 座るなり、丁寧に、磨き始める。
「銃の手入れですか?」 
 ベレッタにそういわれて、ガネットは微笑んだ。
「はい」
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