未来軍部11
□お薬飲めたね☆
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「うおッ!?アル!!」
ゆらり、と真っ黒なオーラはいつもだが、表情も同じように暗い。
「なんだなんだ!?あいつ、どうしたんだ!?」
「わかりません…でも、会いたくないって言われました…」
いや、オレが聞いたのは、アイツの身体の変化なんだけど、と思ったが、アルフォンスにとっては、そんな変化よりも兄に拒否されたことのほうが辛かったのだと、わかった。
「そ、そりゃ、戸惑うだろうよ…。だって、胸あったし」
「そんなことで、僕を拒否する理由にはなりません…」
そして、フラフラとアルフォンスは倒れそうになりながらも、廊下を歩いていった。
「…重症だな」
そんな状態で、アルフォンスは通常業務をこなしている。だが、書類にミスをしたり、珈琲を零してみたり、何もないところで転んでみたりと、通常じゃありえないことばかりするので、部下はもちろん、他の下仕官たちも首を傾げるばかりだ。
「隊長、どうしたんッスか?」
アルフォンス隊の一人、スミノフにそういわれて、アルフォンスは沈んだ表情のまま、「なんでもないです」とだけ言う。
ゴードンも首をかしげた。
「銃の手入れはオレがしますよ」
「いえ、自分で――」
「隊長、危ない!」
ふらふらしていたためか、それに気がつかなかったアルフォンスは、他の下仕官が誤射した弾に腕を撃ちぬかれてしまった。
「隊長!!」
ダンダンダン!
執務室の扉を叩く音が聞こえた。その激しい音に、エドワードとエイジは顔を上げる。
「ガネットです!エルリック中佐が、下仕官の誤射で撃たれました!今、医務室に!」
それを聞いて、二人は目を見開いた。
「僕、行きま――」
そういう前に、エドワードはすでにその執務室から飛び出していた。
「アル!アルフォンス!!」
医務室にいると聞いたので、走っていくと、下仕官が頭を下げているところで、アルフォンスはそれに対して笑顔で「大丈夫だよ」と言っている。
だが、アルフォンス隊のメンバーが全員そこにいて、エドワードはその姿のまま、現れた。
全員が目を見開く。
司令官がシャツ一枚で、しかも胸のあたりにふくらみが見える。それに、司令官の体つきや、纏うオーラの違いに、一同は言葉を失っていた。
アルフォンスは、すぐに
「全員退室してください。このことは、他言無用です。薬の副作用なので」
それだけ言うと、アルフォンス隊は全員敬礼をして、退室していった。
「治療します、中佐」
エイジがそう言ってくれて、アルフォンスは「お願いします」と苦笑を零した。
エドワードはというと。
「僕には会いたくないって言ってたのに」
兄の目は、涙を浮かべている。
おそらく、安堵のほうが強いだろう。
だけど、ぎゅっと唇を噛んで、エドワードは耐えた。
「会ってくれたんだね。よかった…」
アルフォンスの安堵した笑顔に、エドワードは耐え切れなかった涙がぽろ、と溢れた。
「怪我…」
やっといえた言葉はそれだ。
たった今、現れたエイジが、すぐに治療に入った。
「エイジ少佐の治療で、痛みは薄れてるよ」
ぎゅっと兄が拳を握る。
「会えないまま、死ぬのは、嫌だったから、ちゃんと生きて兄さんに会えてよかった」
「ッ…!馬鹿だろ、おまえ!」
そんな声も甲高くて、アルフォンスは苦笑した。
「兄さんが、会ってくれないのが、本当に怖かった。辛くて、痛かった…」
「だって、だって…!こんな身体になって、それでもおまえがオレのこと好きでいてくれたとしても、元に戻ったとき、あの身体のほうがよかったって思われるのが、怖かったから!それに、もしかして、元に戻らなくて、前のオレのほうがいいって思われるのも怖い!だから!」
捲くし立てるように言い放つと、息を荒げていた。
「そんなことないよ」
「そう、言うと思った!でも、そんなの、わかんねーだろ!」
「じゃあ、傍にいて。証明してあげるから!」
勢いよく抱きしめられて、エドワードは返す言葉を呑み込んだ。
「まず、その薬の所為ならその効力をなくす錬成を試みるから」