未来軍部11

□サイミン・サムライ☆
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 自分がしたこととはいえ、コレほどまで変わるのは大丈夫だろうか、とアルフォンスは思ってしまった。

 アルフォンスが、大部屋へ戻って、自分の仕事をこなしていると、監査部の人間が現れた。相変わらず、生真面目な人間のようで、びしっときれいに敬礼を自分にしていた。彼が、一日司令官に同行するという。
「私は忙しい。邪魔をしないでくれ」
 そう監査部のアクトン大尉に言うエドワードに、噂されている姿がまったくなく、彼は首をかしげていた。
 どうにか、一日は真面目に過ごしてくれるだろう、と思っていたアルフォンスだが、数時間後に見た彼に、目を見開いた。

「ぬあっ!?准将!その、頭…!」
 言葉をつまらせた副官に、エドワードは「ああ、これか?」と髪を指差した。
「なんで、黒いの!?」
「こんな金では、目立つだろう?長いのも気にいらないので、明日にでも散髪に行こうと思っているが、黒いほうが目立たなくていいから、黒くしたのだ」
 そう。あの、金糸のように艶やかで、美しい金髪が、見事に真っ黒になっていて、艶はあるのだが、まったく印象が違う。
 そして、軍服のジャケットもキチンと着こなし、一切乱れていない。緩みっぱなしの顔も、今日はきりりとしていた。
「あ。もう、昼食の時間だな。アクトン大尉も同行するかね?」
「はっ」
 監査部のアクトン大尉を連れ立って行ってしまう、別人のような兄に、アルフォンスは何もいえずその背中を見送った。
「って、明日、散髪に行く!?監査部が帰ったら、さっさと戻さないと…!」
 アルフォンスにとって、兄の髪を切るということは、由々しき問題だ。
「真面目に仕事していいと思ったんだけど、なんだか硬すぎて…怖い…」
 すこしだけ、後悔していたアルフォンスだった。


 エドワードが、食堂に向うと、一斉にざわざわとし始めた。
「うわっ!?見ろよ、エイジ!!」
「え?」
 いつものように食事をしていたエネルとエイジの目に飛び込んだのは、監査部をつれた黒髪の司令官。
「一体どういうことだ!?変装でもしてるつもりなのか!?」
「なんだか、顔が怖いですねぇ。何かあったんでしょうか」
 エネルとエイジが首をかしげつつ、エドワードの動向をじっと見つめていた。

 トレイを持ったエドワードは、キョロキョロとみわたし、エイジとエネルのいるテーブルの椅子が二席空いていることに気がつく。
「エイジ少佐、エネル大尉。ここ、いいか?」
 いつもは絶対聞いたりすることもなく、どかっと座るのに、今の黒髪の司令官は、凛々しい顔つきでそう尋ねた。
「ど、どうぞ…」
 エイジがそういうと、
「忝い」
 そういい、つれていた大尉と一緒に座ったのだった。

 エイジとエネルは顔を背けて、笑いを堪えるのに必死だった。
(か、かたじけないって…!ぷぷぷ…)
(わらっちゃいけないですよっ!で、でもおかしい〜!!ぷぷぷ)
(なんだ、あいつは!武士か!?武士なのか!?東方にある島国の、昔のsamuraiってやつなのか?ぷはははは!)
(髪も黒いし、なんなんでしょうね!?あ、そういえば、エネル大尉の書類、全部戻ってきましたよ?やり直しで)
(何!?なんでやりなおし!?)
(誤字脱字が多すぎて、みるに耐えられないそうで)
(マジかよ!?ってか、あいつちゃんと読んでるのか!?)
(見たいですね…。素行調査中だからでしょうかね)
(それとサムライ、どう関係してんだ!?)
(それはわかりませんけど…)
 二人がヒソヒソ話をしていると、
「なんだ?エイジ少佐、エネル大尉。言いたいことがあるなら、申してみよ」
「な、なんでもないです!」
 申してみよって…!
 笑いを堪えるのに、辛くなったエイジは、トレイをもって、
「すみません、やりかけの仕事を忘れてました」
 そういって、立ち上がった。
「あ!エイジ!てめーずるいぞ!オレも、書類やり直してこなくっちゃ!じゃ!」
 そういって、エネルも立ち上がり、二人でこそこそと逃げるように部屋へ帰ったのだった。
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