未来軍部11

□月の天使
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 だが、男が立ち去らない。顔色こそ変えていないが、二人は内心一番のライバル同士が、仕事の上とはいえ唇を重ねるという、ありえない状況に硬直している状態だった。
 しかも、男が諦めないので、さらのその唇が深くなってしまうのは、仕方ない状況だった。
 どっちがどっちに絡めたのかは、わからない。というよりも、記憶から飛んでいた。
「けっ!お熱いことで!」
 男が踵を返した瞬間、二人は磁石のS極とS極N極とN極のように、一瞬にして距離を取る。男が店を出ると、二人は思わず口をごしごしとぬぐった。
(うああああ!兄さん!兄さん!にいいさぁああん!!)
 半泣き状態で、アルフォンスはブランデーを煽る。
「消毒っ!消毒!強いアルコールもってきてください!!」
「それはオレのセリフです」
 マーカーも、心なしか、真っ青になっていた。


結局――
「うわぁあああん!!」
 夜中二時ごろに帰宅したアルフォンスが、泣きながら兄が眠っている、二人の寝室に飛び込んできた。
「ん…あ?」
 睡眠をとっていたエドワードは、その大声で目を覚まし、起き上がった。
「どうしたんだよ。潜入はうまく行ったのか?」
「例の社長の調査は概ね終わったよ!出資している会社も把握できた。すべてのデータは揃ったから、すぐにでも乗り込める!でも、でも、悪夢なんだよ!!」
「はぁ?」
 必死で泣きついてくる弟に、エドワードは首をかしげる。
「なんかわかんないけど、涙が出てくるううう…」
 そこで、泣き出したアルフォンスにエドワードは、「よしよし」と頭を撫でている。まるで、幼児をあやしているかのようだ。
「兄さぁん!」
 がばっと思わず抱きつくと、アルフォンスはかなりの酒を煽ってきているようだ。
「どうしたんだよ。言わないとわかんねーだろ?」
「ううっ…」
 アルフォンスは、泣きながらコトの顛末を兄に伝えたのだった。

 伝えたあと、兄は俯いてふるふると震えだした。
「兄さん!?泣いてるの!?違うよ!?そういうつもりは、全然ないんだよ!僕は兄さん一筋だし、ちゃんとアルコール消毒したし!天地がひっくりかえっても、僕は少佐なんか――…兄さん?」
 兄が、口を抑えてさらに震えている。
「あははははは!わ、笑える!何、それ!あははは!マジ!?よりによって、おまえとマーカー!?ぎゃはははは!!」
 仲が悪いのは知っているので、エドワードは、アルフォンスが心配した事で泣いていたわけではなく、可笑しくて、震えていたのだ。
「ひーひー!もう、ダメ!笑い死ぬ!!」
 腹をかかえて、げらげらと笑いの止まらないエドワードに、アルフォンスはなんだか怒りがこみ上げてきた。
「なんだよ!僕がこんなにショックを受けてるのに、笑うことないじゃないか!」
「だって、おかしいもんよ!なんでそんなことになるんだよ。あははは!」
「なっちゃったんだよ!笑いすぎでしょ!?」
「笑いすぎな内容だもんよ!ぎゃははは!」
「いいよいいよ。もう…」
 アルフォンスが、怒りをとおりこして、しゅん、と瞳を下げて立ち去ろうとしたので、エドワードは慌ててその手をつかみとった。
「わ、悪かったって!ごめんごめん!」
 ベッドに引き込んで、よしよし、とアルフォンスの頭を撫でてやる。アルフォンスはすがりつくように、兄の膝に頭をおいた。
「うう…もう、僕仕事辞める…」
「そこまでなのかよ!」
「だって、よりによって、少佐…うぷっ!キモチワルイ…」
「それは、酔ったからだろ」
「違うよ!酔えるわけないよ!!」
 がばっと起き上がった弟に、エドワードは苦笑した。
「わかったわかった。ほら、消毒」
 目を閉じて、軽く顎を突き出した兄の、その顔がとてもかわいくて、アルフォンスは思わず口付ける。
「だめだめ!全然足りないよ!もっと濃厚なの欲しいの!!」
「…おまえ、マーカーと舌まで入れたの?」
「うわあああん!だって、だって、仕方なかったんだもん!!」
「おまえ、男なら誰でもいいんだ…」
「ちがっ!違うよ!?僕は、兄さん以外の男なんか、まったくもって興味ないんだからね!?」
 必死なアルフォンスに、エドワードは、あはは、と再び笑った。
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