未来軍部11

□アゾート
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「なんでぇ〜!?」
「なんで、と申されましても…。彼が逃げてらしたからですわ。わたくし、以前お世話になっておりますの」
「なんで逃げたかとか聞かないか!?フツウ」
「テロを起こしたとか、なんとか。でも、私のところへいらしたということは、逃げるつもりはないということですわ」
 うふ、とレヴィが笑う。
「ちょっとまてよ、オレの明晰な頭脳が理解できてねぇ」
「つまり、彼は知ってらしたんですのよ。私が、エドワード様の遠距離中の恋人だってことを。うふふ〜」
「後半はいいとして、その男は兄と話をしたい、ということですか。では、なぜテロを?」
「さあ?行けばわかりますわよ」
「リディアさん、大佐が匿ってるの知ってたの?」
「はい」
「度胸あるよな〜母親が、捕まってるっていうこの状況で、それを陥れた男の居場所を知りながら、騒がないんだもんよ」
「事情がどうであれ、私は東方司令部にいる以上、司令官の意見をお聞きしたいと思ったまでです」
 エドワードはあきれたように、
「大した娘さんだよ」
 と彼女の肩にぽん、と手をおき、そのままレヴィ大佐の車に乗り込む。
 慌ててアルフォンスもそれに乗り込み、マーカーが運転してきた車に、リディアも乗り込んだ。

 五人がやってきた、とあるバラック。レヴィ、エドワード、アルフォンス、リディア、そして入り口付近にマーカーが立ち、話が始まった。
 男は、真っ白な髪に、真っ白な髭をした老人で、軍にいたような精彩さは感じなかった。
「彼が、アボット元少将ですわ」
 レヴィにそういわれて、エドワードは
「エドワード・エルリック准将だ。オレがここに来た理由、わかるよな」
 老人は、静かに頷いた。
「覚えておるぞ。昔、小さな子供が国家錬金術師資格試験をパスしたと。たしか、その名だったと思うが」
「そう、そのエドワード・エルリック」
「まだ、小さいではないか」
「んだとー!?」
「兄さん…」
 あきれたアルフォンスが、エドワードを抑え、話を進めた。
「アレから十年以上の月日が経った。アンタが退役して身を隠したあと、第五研究所のことも、赤い石の研究のことも、全部消滅している」
「…まさか、おまえが…?」
 老人の驚きに、エドワードは、頷きつつも、
「利用されそうになった。とあるヤツラに。だが、今はもう、あるのはココだけだ」
 エドワードが、とん、と自分の頭に指を置いた。
 老人は、ふっと笑った。
「中央と、東方の囚人を襲った理由、教えてもらおうか?」
「ただ、思い出しただけだ。噂を聞いた。リオールの近くで赤い石のことを。まだ、あのころのような実験をしているのか、と酷く腹立たしくなった。軍が解決したのも、ただの尻拭いだと思っただけだ」
「あんたは、なぜ、第五研究所の実験内容を知った?」
「あの実験に関わった友人の錬金術師が、私にも打診があるかもしれない、と言っていた。だが、その友人は、殺された。彼が残した遺留品の中に、一つだけ私に郵送されたものがあったのだ。それを読んだ。そこで、知り愕然とした。錬金術をなんという、悪魔の力にしているのか、と腹立たしく思えた。私が、国家錬金術師ではない理由は、そこにある。人をなんと素晴らしい力で殺すのか、と」
「でも、あんたは10年前と今回、テロという悪魔の力で無関係の人を殺している」
「止めるべき方法を知らなかったのだ。今回の囚人収容所を襲ったのは、テロの犯人で捕まった仲間たちを赤い石にさせないため」
「なんで、十年前にテロを起こしたんだよ。理由がはっきりしねぇだろ!」
「貴様は、ブラッドレイを知っておるだろう」
 その言葉に、す、と目を細めた。
「だったらなんだ」
「ヤツの恐ろしさを知ったら、自分は死ぬしかないと思ったよ。ヤツが暗黙の了解をした研究内容だ。それからどうやって目を逸らさせるか」
「つまり、ブラッドレイの視線を外すために、テロを頻繁に起こしていたと?」
「あまりにも死亡者が増えて、恐ろしくなったのだな。自分がやっていることは、悪魔の研究と同じだと」
 エドワードは、は、と乾いた笑いを零した。
「おせぇよ!そんなんだったら、自分でブラッドレイに戦いを申し込め!直談判だろうが!」
「若いな、貴様は」
 なんの力も精彩も感じられない老人と思っていた男から、す、と鋭い視線が向けられて、エドワードは眉間に皺を寄せた。
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