未来軍部11

□月の記憶
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「甘いですね。相手をよく調べもせず」
 アルフォンスの言葉に、マーカーもそれについて、同感だと言わんばかりにうなずく。
「で、どうして、その錬金術師が行方不明なだけで、われわれが動かなければならないのです?国家錬金術師の管理管轄は、別でしょう?」
「次期大総統からの、依頼でもあります。ま、動くかどうかは、司令官のお気持ち次第ですが…。少々気になるのが、彼の研究内容です。おそらく、中佐もそれを聞いたら、動かなければならなくなるのでは」
 エルリック兄弟が目を同時に細めた。
「合成獣の錬成なんです。しかも、人間そっくりの――」
 マーカーが、二人の前に、分厚い研究内容を差し出した。
「今回の、国家錬金術師資格試験で提出された研究内容です。これは、通っておりません」
「それで、失踪したんじゃねーの?通らなくて、悲観して、隠れた、とか」
「まずは、読んでいただけますか」
 そういうので、エドワードはしばらくその分厚い書類を読みはじめた。

 すべて読み終わって、無言でアルフォンスにそれを渡す。
「『従属な人型キメラの錬成』これでは、成功した、とあるが、成功したキメラの実物は提出されていないのだろう?空想かもしれん」
「そして、これが、次期大総統からの命令書です」
 その紙には、大総統印がある。
「『家宅捜査を執行せよ。報告書のみの提出でよい』つまり、好きにやっちゃっていいよ〜ってことか」
 エドワードは、重い溜息をつきつつ、
「調査には、オレが行く。アルフォンス隊とエイジ隊、マーカーも来い」
「「はっ」」
 二人が同時にそれを承諾した。


 イーストシティの端にある、街はずれに、一同は向かった。そこに、失踪した錬金術師の家があるという。
 エイジ隊に周辺の護衛をまかせ、エイジとエネルだけは、エドワードに同行する。

 玄関扉を開いたのは、アルフォンスだった。銃を構えて、そのまま、研究室らしき場所へ向かった。
とある部屋を開いた瞬間、
「っ!」
同時に、ぴたり、と足を止め、茫然と立ち尽くしてしまった。
「どうした?アル」
 エドワードとエイジ、エネルがアルフォンスの後ろにつづき、その部屋に入った。
「わっ!」
「なんだ、これっ…!」
 見ると、部屋の壁全面に、見覚えのある顔が映った写真が貼られていた。
「って、オレ!?」
 何百枚、いや、千枚以上はあるんじゃないか、と思うくらいの写真の量だ。笑った顔から、厳しい顔付き、眠った顔、組手をしている姿や立っている、座っているものまですべてある。
「全部、隠し撮りですね」
 すべて、視線はカメラのほうには向いていない。
「司令部と…これは、自宅のものまで」
 ぞく、とエドワードの背筋に悪寒が走った。
「なんで、兄さんを?まさか、ストーカー行為?」
「いや、他に被害があるわけじゃないし、付きまとわれていたこともなかった。そうだろ?」
 エドワードにそういわれて、アルフォンスも、後をつけられていたら、自分も気がつくだろうと思った。
「准将」
 マーカーにしては、ずいぶんあせりの見えた声がした。
 隣の部屋に向かっていたマーカーが何かを見つけたようだ。一同がその、隣の部屋へ向かうと、点々と血が滴り落ちていて、血の海のように広がっているところに、錬成陣がある。
「!?」
 さらに、全員が目を見開いた。
 その血に塗れた錬成陣の上に、人が倒れこんでいる。
「お、おい!?」
 エドワードが近づこうとしたので、アルフォンスが「気をつけて!」と声をかけた。
 エドワードが近づくと、同時に人は、むくり、と起き上がる。
 そして、輝きや色のない瞳で、エドワードを見据えていた。
「…エドに、似ている…」
 エネルがぼそ、とつぶやく。そして、アルフォンスは、はっとした。
「兄さんに、似せたホムンクルス!?」
「いや、違う…」
 服は着ていない。裸で、背中には、獣らしき毛が残っていた。それが、唯一キメラの証拠にも見えた。
 よく見ると、足や手などに縫ったような形跡がある。
「っ…!」
 エドワードとアルフォンスの脳裏に、走馬灯のように、ニーナの記憶があふれてきた。
「っ…!なんでっ…!?」
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