未来軍部11

□月の記憶
3ページ/7ページ

 犬と錬成されたニーナ。そして、父親の狂気は続き、亡くした少女の魂のない人形を作り上げていた。
「なんで、オレなんだ…!?」
 人形のように、そのキメラの瞳には、輝きはない。だけど、確実に、動いている。今は、エドワードと顔を向き合わせ、じっとお互いを見つめあっている。
「ギギ」
 そして、言葉とは言えない声を発し、不思議そうに首をかしげたのだった。


「実験時の呼称は、エデン、だそうです」
 どうすることもできず、司令部に連れてきたのだが、どうしたらいいのかわからず、ただ司令官執務室の床にぺたん、と座る彼を見つめた。
 ぶるぶると体を震わせたので、アルフォンスがそっと毛布をかけてやる。そして、その毛布を錬成して、服を作ってやった。
 すると、合成獣エデンは、目をぱちくりさせて、着せられた服を不思議そうに見つめている。
「あったかい?」
 アルフォンスの笑顔に、エデンはアルフォンスの両頬をつかみ、エドワードと同じ顔で、まじまじと見つめた。その距離は、一センチほどだ。
「わ」
 驚いたアルフォンスだが、エデンが両腕を自分の体に巻きつけてきたので、抱き上げてやった。すると、エデンは、すりすり、と頬を寄せてくる。
「なんだか…恥ずかしいんですけど」
「話せないんだな。何も、わからないのか?でも、エドとアルがいちゃついてるみたいで、なんだか不愉快だ!」
 エイジとエネルの言葉に、エドワードは目を見開く。
 そして、ぎゅっと眉間に皺をよせて、司令官執務室を出て行ってしまった。
「おい、エド?」
「兄さん!?」
 
 エドワードが、感じたのは、恐怖だった。
「オレの代わりなんて、いるもんだな」
 姿形が同じだ。
 そう、
 『造れる』
 おそらく、知能は猿ほどだろうが、人体錬成でもなく、合成獣錬成で、代わりは『造れる』。
「……」
 にしても、あのキメラ、殺すわけにはいかないし、どうすりゃいいんだ。
 とりあえず、無能に連絡して、研究所にでも送致するしかねーな。

 まず、キメラに関する資料でも集めるか。
 エドワードは、資料室に入って行った。


 そして、数時間後。
 エドワードが、資料室から、数冊の本を手にしながら、司令官執務室に戻ってくる。
 
 エデンを囲って、なにやら笑みが広がっていた。
「いいですか、エデン。貴方の名前は、エデンです」
 エイジが目をみて、そうエデンにむけて言っている。キメラは、じっとエイジの唇をみつめて、自分の唇を動かそうとしていた。
「え」
「声がでました!声帯は発達しているのかもしれません。言葉を教えれば、しゃべるかもしれませんね」
「まてよ、エイジ!」
 エドワードがそう叫ぶと、思わぬ声の大きさに、一同はエドワードを見る。同時に、びくり、とエデンは体を震わせて、飛びはねるように、アルフォンスの後ろに隠れていた。
「どうしたの、兄さん」
「おまえら、言葉を教えて、どうするんだ!?そいつは、人間じゃない!キメラだ!人の顔をしているが、あいつの残した研究内容に、動物を掛け合わせたことが、明記されていたじゃないか!」
「でも、兄さん。このまま、放っておいても、エデンは死んでしまうよ。人に慣れる必要があるんじゃないかな」
「慣れて、なついて、なつかれて、どうすんだよ!そいつは、研究所行きが決まった!」
「研究所!?」
「あたりまえだろうが!キメラなんだぞ!人間じゃない!」
「人間じゃなくても、命は変わりないでしょう!」
 アルフォンスがエデンを背後に、守るようにしているので、エドワードはきゅ、と眉間に皺を寄せた。
「…おまえは、ニーナを忘れたのか…!」
 兄の、低い声に、アルフォンスはきゅっと唇をかんだ。
「だから!だからでしょう!?エデンを救えるかもしれない!これから生きていくのなら、言葉や日常生活を覚えていくことだって、必要だ!」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ