未来軍部11

□月の記憶
4ページ/7ページ

「じゃあ、キメラになったタッカーが、抱いていた人形を忘れたのか」
「あれは…!魂がないただの人形だった。エデンは違うよ」
「やきもちですか?」
 ふいに聞こえた、エイジの言葉に、エドワードはぎゅっと唇をかみしめた。
「中佐を独占されてるから」
 それも、あるかもしれないから、否定はできない。
 だが。

「おまえらは、今後のことを考えていない。エデンの言葉の獲得や、日常生活ができるようになって、キメラ研究が『成功』と言われる。それが、今後、どういう状況や影響を及ぼすのか、考えてみろ!もっと、かわいそうなキメラが生まれ、死に、命がもてあそばれる!奴の研究は、そもそも『従属な人型キメラ』だぞ!奴隷的なキメラを造るつもりだったんだ」
「だけど、目の前の命を、大切にすることだって、重要じゃないんでしょうか!」
 エドワードは、きり、と顔を上げた。
「アルフォンス・エルリック中佐!司令官副官の任を解き、合成獣、呼称『エデン』の管理を命令する!リーン・エイジ少佐、エイジ隊隊長の任を解き、中佐と同じ!両方、無期限だ!そして、エデンともに、司令官執務室に、許可なく入室を禁じる!以上!復唱!」
「できません!僕は、副官の任を解かれるようなことをしていない!」
「僕も同じです!」
「おまえらとは、考えが合わない!そんな奴らを、そばに置くつもりはない。出ていけ。ここは、司令官執務室(オレのへや)だ」
 びくびくとエデンが震えているので、アルフォンスは、そっと自分にしがみつく手を握った。
「行こう、エデン」
 アルフォンスがそういって、執務室を出て行こうとすると、エイジはきゅっと拳を握って、踵を返した。
 扉を閉められたとき、エネルとマーカーがそこに残っていることに、気がついた。
「何を、イライラしてんだ、おまえ」「
「うるせー」
 がしがしと、頭をかき乱すエドワード。
「…貴方に似ているから、仕方ないのかもしれませんよ」
 マーカーらしくない言葉だが、エドワードは無言だ。
「エデンを造った錬金術師は、貴方にあこがれていたようです。錬金術師として。そして、愛情が歪んでしまった」
「それは、愛情じゃない」
 マーカーとエネルは顔を見合わせて、どちらともなく溜息をついた。


 数日後、エドワードの元についた手紙。
「マーカー」
「はい」
「この手紙、アルに渡しといて」
「ご自分でどうぞ。エデンの言葉の獲得の成果を見てらしたら、どうです?」
「なんで、オレが」
「それに、オレは、今から用事がありますので」
 マーカーがそういうと、さっさと行ってしまった。
 手紙の内容は、エデンの研究所へ行く日にちが決まったことだった。

 エデンが来てから、この数日、自分はアルフォンスと二人になったことはない。アルフォンスとエイジは、順に面倒を見ているようで、仮眠室の一室とエイジ隊やアルフォンス隊に出入りしているようだ。
 服装は、軍服を着用はしていないが、姿形が、エドワードに似ているので、愛着が生まれているようで、廊下を歩いていると、声をかけられるまでになった。
 そして、エデンも、にっこり、と笑顔を見せる。
 司令官のエドワードが、めったに見せない表情を、似た顔のエデンがするので、士官たちも愛情を持って接していた。

 仕方なく、エドワードがアルフォンス隊に向かい、部屋の扉をノックしようとしたら、どっと笑い声が部屋から漏れていた。
 そっと、扉を開くと、

「あ・る、す・き!り・ん・ご・す・き!」
「中佐、リンゴと同レベルッスね」
 そうアルフォンス隊のメンバーたちに茶化されて、アルフォンスも苦笑し、近くにいたエイジも笑っていた。
 すると、エデンもきょろきょろしてから、にっこり、と笑う。
「ほんっとによく笑うようになりましたね。安心しているかのようです」
「うん、そうだね。安心してるんだろうね」
 ふと、一人の士官がエドワードに気がついて、敬礼すると、アルフォンスとエイジが振り向く。
「准将…」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ