未来軍部11

□月の記憶
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 アルフォンスとエイジが目を見開き、エドワードを見た。

エドワードは、ちらり、とエデンを見てから、アルフォンスに届いた手紙を渡した。
「来週の月曜日、中央の研究所に送致することが決定した」
「っ…!」
 全員、息が詰まったように、言葉を発することすらできなかった。
「?」
 唯一意味がわかっていないのは、エデンだ。首をかしげて、アルフォンスを見つめている。その純粋なまなざしで。
「ア・ル?」
 アルフォンスは、眉をひそめて、そっと顔を向ける、エデンの頬に触れた。そして、さらり、と髪を耳にかける。
「なんでもないよ」
 そう優しく言うが、
「どうして、ちゃんと話さない?言葉の獲得ができるのなら、伝えていることが、理解できているんだろう!」
「じゃあ、反対に、どうして伝えられることができるんですか!?」
 エイジが叫ぶ。
「だから言っただろう!おまえらが、余計な感情で研究対象を見ているから!…別れは、いつだって、突然にくるもんだ」
 細めたエドワードの瞳を、アルフォンスは見逃さなかった。
「だけど、兄さんは、何かを恐れている!まるで、エデンを受け入れようとしない理由がそこにあるかのように」
「だから、そいつは人間じゃないだろう!」
「それは理由じゃない!貴方は、どんな形をしていても、愛せることのできる人だ」
 たとえ、鎧でも、貴方はちゃんと愛してくれていたでしょう。

 ぎゅっとエドワードは拳を握った。
「結局、オレたちは何も変わっちゃいない。ニーナを助けられなかった。錬金術をさらに学んだ今でも、結局助けられないじゃないか!量の問題じゃないが、今後、こういう悲しい魂を増やさないことだって必要だ!余計な感情でこの研究対象を見ていたら、いつかまた傷つくことになるだろう!」
 おまえがまた傷つくのを見たくないんだ。
 そして、
 オレの代わりを見つけるのも、怖いんだ。

 ぎりぎりと握り締めたエドワードの拳を、エデンがそっと握った。
 その手は、猿のように大きくて、爪は鋭く、伸びていたけれど。
「に・い・さ・ん・す・き」
 その言葉に、はっとする。
 アルフォンスは、アルフォンス隊の手前、エデンが出してしまった言葉に、あせったが、誰もが、純粋な言葉の意味だと考えていた。
「す・き」
 自分とは、ほとんど接していないから、おそらくその言葉は、アルフォンスたちが言い聞かせた話しや言葉のなかから、エデンに伝わったのだろう。
 にこ、と純粋な笑みを向けられた。
 エドワードは、それ以上強くは言えなくて、肩の力が抜けていくような気がした。
「な・か・な・い」
「え…」
 泣いていない。
 涙なんて、出ていない。なのに、エデンにそう言われて、エドワードは自分の心が号泣していることに気がつく。

 結局、アルフォンスに代わりができることを恐れていた。そして自分はこの『エデン』を助けられないことを、わかっていた。
 だから、それを知るのが怖くて、逃げて、離れて、研究所に送るのだ。
 そうすれば、アルフォンスに代わりがいなくなって、その対象を見ることなく、自分は安堵できると、考えている。

「こ・わ・く・な・い」
 アルフォンスは、自分が「エデン」に伝えてきた言葉が、本当は兄に伝えたいことだったことに、気がつく。
 すき、
なかないで、
こわくない。
 
 そして、
「だ・い・じょ・お・ぶ。ぼ・く・こ・こ・い・る」

 エドワードは、必死で涙をこらえていた。アルフォンス隊がいる前で、司令官が泣いてはいけない。
 そっとエデンが額と額を重ねてきた。
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