未来軍部11

□金無垢の終末(後篇)
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 オレの世界の終末は、一体どんな所なのだろう。
 雪のような、白銀なのか。
 それとも、闇のように真黒なのか。
 血に彩られで、深紅なのか――

 エドワードは、うっすらと目を開くと、そこには金が揺らめいていた。
「オレの世界の終りは、黒でもなく、赤でもなく、金だ」
「変なうわごと」
 その声に、急速に頭が覚醒していく。
 目を開くと、いや、
…開けれた…
 目があいている。
 つまり、生きている?
「…なんで、生きてる…?」
 右腕の痛みも、足の痛みもない。
 ということは、痛みから解放されたそこは、天国?
「オレ、やっぱ死んでるのかな」
「だから、そろそろ目を開いて、よく見てよ。僕の顔」
 同時に、温かい雨が降ってきた。
 ぽつぽつと頬に、落ちる温かい雨が、一瞬何なのか、理解できない。
「兄さん」
「…いやいや、幻聴にもホドがある。オレ、絶対死んでる。だって、あんな寒いトコに放置されたんだもん。死んでるよ、オレ、死んだ。アルフォンスも、オレを置いてどっかいっちゃったし、追いかけても、この雪じゃ追いつけなくて、エマリ―中将にやられて、だけど…だけど、アルフォンスがっ!オレのこと置いてったのに、変な手紙だけ残してくから!こんな手紙だけじゃ、信用しないんだからな!ちゃんと、暖かい手で、ぎゅってしてくれねーと、絶対信用しないんだからな!あいつは、オレを置いて、自分だけ行っちまったんだぜ!あれだけ、一緒にいようって約束したのに、約束なんてなかったように、簡単に反故にしやがって、そんなんだったら、オレはあのまま雪に消えたほうがよかったんだ!オレのこと、いらないんなら、置いていくくらいなら、殺してからいけ、アホアルフォンス!おまえなんか、これから、アホンスって呼んでやるんだからな!」
「もう…勘弁して…」
 エドワードの涙なのか、自分の涙なのか、もうわからなくて、アルフォンスは、そっと横になっているエドワードの胸に額を乗せた。
「オレのこと、置いてどっかに行くようなヤツ、オレは知らない」
「ごめんなさい…」
「絶対許さない。ねちねち永遠に言い続けてやる」
「ごめん、ごめんなさい…」
「国外逃亡したいんだったら、もう一度言う。オレを殺してからいけ。それができないなら、逃げるな!逃げた先には、なんもないことくらい、知ってんだろう!」
「貴方は、死んでも、アメストリスを捨てないんだね。あの人が、統治するであろうこの国を」
「無能が統治して、おまえが気に入らないときは、オレが大総統になってやる」
 アルフォンスは、目を瞬かせた。
「え…」
「おまえが、無能を信頼できないのなら、オレがなってやるって言ってんだよ」
「信頼、してないわけじゃない。嫉妬しているだけだ…。兄さんと大将の無償の信頼が、僕は羨ましい」
「何言ってんだ、おまえ。オレとアイツの間に無償なんて言葉はない。すべて、自分に利益がなければ、つながらない。オレが利用しているから、アイツはオレを利用する。オレにだって、得がなければ、あんな無能、捨てるに決まってる。……なんて、おまえはオレを信用してないから、そうやって疑うんだ。何いっても、オレのこと、信用してないもんな。なんせ、オレを置いていこうとしたんだから!」
「う…」
「置いてかれたオレが、東方司令部に戻って、おまえのいない日々を過ごす。飯も食わず、仕事もしなくて、誰かに求められたら、それを受け入れて、行きずりの人間に、クスリ使われてそれにどっぷり漬かって、廃人状態になって、道端で死ぬ人生でも、いいって思ったんだよな!」
「そ、そこまでは思ってないよ!」
「じゃあ、餓死してもいいと思ったんだ」
「そんなことないよ」
「じゃあ、誰かと、結婚してもいいって思ったんだ」
「えっ!」
「そこまで考えてないってことは、おまえはオレのこと全然なんとも思っちゃいねーんだよな。なんせ置いて行ったんだからな!」
「ご…ごめんなさい…」
「オレのこと、いらないんだもんな!置いてったんだもん。おまえ、オレのこといらないから、置いてったんだ」
「うううっ」
 アルフォンスの目に違う色の涙が伝う。
「ごめんなさいってば…」
 ちくちくいじめられる。もっと、痛い言葉で罵ってほしいのに。
「だって、オレのこと、置いてったんだもん。こんな、極寒の地に!この、オレを!」
「浅はかだったよ!本当に、ごめんなさい!」
「言葉は信じない」
「兄さん…」
「あれだけ、あれだけ言っても、伝わらない。愛してるって言っても、信じない。なんせ、置いていけるほどの存在なんだ、オレなんて」
「違うよ!」
「言葉は信じない」
「にいさん…」
「だったら、ちゃんと逃げた理由をいえ。このオレを置いてまで、行きたかった場所を教えろ!」
 アルフォンスは、観念したように、視線を落とし、涙を拭いた。
「シンへ…」
「シン!?」
「練丹術に、その可能性を考えた。この国では、練丹術の記述は非常に少ないから…」
「ふうん。このオレを捨ててまで、行きたかったのが、シンなんだな」
「ああもう、ごめんってば…」
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