未来軍部11
□月に誘われて
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その時、扉が開かれるーー
「準備は、いいですか」
女は、小さくうなずいた。
白いドレスと、レースのついたベール。それにかくされた、金色の長い髪。
だが、その表情は喜びに彩られることなく、蒼く、どこかあきらめの色も見てとれた。
「こちらへ」
促された祭礼の場。そこへ、裸足でゆっくりと歩き、階段を上る。
人々が何かを唱える、その間を静かに歩いた。
「…さん!」
背中で、自分を呼ぶ声が聞こえたが、振り向かなかった。
漆黒の闇のなかに、ぼうっと浮かぶ火の明かり。いくつもある松明の中央に、台のような場所がある。そこは、真っ白な布に覆われていた。
女が、促されてそこへ腰かけ、やがて、横になった。両指を胸の上で組むようにおき、祈るような態勢を取ると、促していた男たちが、その場から去っていく。
祭壇には、松明と女。
そして――
「今回の“生贄”は、上玉だな」
現れた、男に、女はびくり、と体を震わせた。
白い衣装を脱ぎ、上半身を晒し、女が横たわる台の上に腰かけた。
ベールを外して、女の白い首筋をなでる。
「貴様は、今日からこの『神』の妻として、一生をオレに奉げろ」
顎を捉えられて、女は唇を震わせて小さくつぶやく。
「その所存でございます」
男は、にやり、と口角を釣り上げて、そっとなでるように白いドレスの胸元から手を入れた。
わずかに、男の眉が動いた。
勢いよく、その胸元を飾るレースの一部を引きちぎると、目を見開く。
「貴様…!」
女は、うっすらと笑みを浮かべて、
「汚い体で申し訳ないね。オレ、男なんだよね」
右肩には、大きな傷痕。そして、無数の傷が、月明かりでさらに白く見せた肌に浮かんでいる。
「誰だ…!?」
一歩引いた男に、横になっていた男は、起きあがった。
「大っぴらな婦女監禁、暴行罪。これは軽くねぇぜ」
そういうと、男は踵を返し、その祭壇から逃げようと試みた。
だが、はっとした。
何十という獣に、囲まれているような気配を感じた。
ぞくり、と背筋が凍りつく。
松明の揺れる影が、不気味にその獣たちを彩る。
だが、男に向けられたのは、牙ではなく、冷たい銃口。
「東方軍です。直ちに投降しなさい」
一人の男が、階段からあがり、冷たく光る金の瞳を向けた。
「誰だ!」
「東方司令部エルリック中佐だ」
「き、貴様ら!神聖なる生贄の儀を邪魔すると、神の怒りを買うことになるぞ!」
白いドレスの男は、不機嫌そうに眉根を寄せた。
「神ってダレ。連れて来いや」
「神は私だ!この私が…!」
男のセリフはそこまでだった。男の頬に、足がめり込む。
蹴ったのは、白いドレスを引きちぎられたまま、上半身を夜気にさらした男。
「神の怒りだぁああ!?それまえにオレが怒ってんだよ!」
「ぐっ…!きさま…ダレだ…」
「ああ!?東方司令部司令官、エドワード・エルリック准将だっっ!!」
そこまで聞いて、男は、がく、と頬を敷石につけた。
囲っていた獣――いや、軍人がどっと流れ込み、男を連れだす。
「准将、信者たちはどうしましょう?」