未来軍部11

□月に誘われて
4ページ/4ページ

 そこで、エドワードは、はっと目を開いた。
「夢…か」
 窓の外をみると、見慣れた街が流れ出す。そして、駅構内に汽車は止まった。
 自分の荷物をもち、駅を出ると、
「おかえり」
 アルフォンスがそこに立っていた。
「ただいま」
 ふわ、と自然に笑みがこぼれた。
ほっとしたのもあるだろう。
「迎えにきたのに、車じゃないのか」
「月が、綺麗だったから」
 そう手を出して、兄の荷物を持つ。
「意味、わかんね」
 はは、と笑って二人は歩き出す。
「本音を言うとね、怖かったんだ」
「え?」
「月が。――あの、祭壇に上る時、僕、思わず『兄さん』って呼んだの知ってる?」
「あ、やっぱりあれ、おまえか!無視したけどさ」
「月に誘われて、本当に兄さんが生贄になるようで、すごく不安だった。だから――」
 アルフォンスは、荷物を持っていない手で、エドワードの手を握る。そして、再び歩みを進めた。
「生贄ねぇ」
 エドワードは、ちら、っとアルフォンスを見上げ、握っていた手をぐい、っと下に引っ張る。
「わ!」
 油断していたので、そのまましゃがみこむように、アルフォンスのバランスが崩れた。
「何すんだよ、もう」
 文句を言うアルフォンスの頭を、エドワードが、がしっと掴んだ。
「おまえ、白髪ねえよな」
「はあっ!?」
「いや、無能が白髪増えるって」
「それって、苦労させてるってことでしょ」
「どっちが苦労してんだろうな」
「僕だよ。心労。だいたい兄さんの命令ってば、曖昧だし。死ぬな、とか」
「単純明快が一番。あ、つむじのとこに、白髪あるぜ」
「え!?ほんと!?」
 ぷち、と髪を一本ぬかれた。
「見せてよ」
「あ、間違えた。おまえ金髪だから、夜だと月明かりでわかんね」
「ひどい…」
 にしし、とエドワードは笑って、逃げるように数歩先を歩いた。
「もう、あんな原始的な生贄とか神とか、そうそうないだろ」
「いやいや、何度もあったよ。闇に隠れてる宗教は、テロと通じてる可能性が高いから…」
「宗教=テロにしてしまうのも、信者にしてはかわいそうな場合もあるけどな」
「やはり、信じるものの力って強いんだね。だから、兄さんのあの簡単な命令は、みんなの心に響く――貴方を信じているから」
 エドワードの顔は見えなかった。
 だけど、ずず、と鼻水をすする音が聞こえた。
「おまえも、アルフォンスも、同じこといいやがる」
「え?」
 振り向いた瞬間、エドワードはにかっと笑っていた。
「扉は、開かれる。いつか、必ず」
 どこか、ふっきれた表情のエドワードに、アルフォンスも口角をつりあげた。
「仕事、してやるぜ。今日は、とことん書類やってやる。そのかわり、朝イチには、ベーグルサンドな」
「りょーかい」

 二人は、くすくすと笑って、東方司令部に還る。

 アルフォンスは、門に入るまえに、もう一度月を見上げた。

 月が誘う扉には、何が起こるのか。
 わからぬまま、まだ見ぬ世界に、希望を抱く。
 それは、悪いことじゃない。

 信じる強さを、何よりも強いと知っているから。
 だから、貴方は無条件に、彼を信じているんだね。

「おい、アルフォンス」
「今行くよ」

 だから、僕も信じるしかない。
 誰よりも、貴方を信頼しているから。

おわり☆
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ