未来軍部11

□双頭の合成獣(キメラ)
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「タイヤン・エマリーという人間が、数日前にエマリー中将に会いに来たようです」
「タイヤン・エマリー?兄弟か?」
「それを、調べましょう」
 そういうと、マーカーはその部屋を出て行った。
「アル、おまえの仕事は?」
「少佐が引き継いでくれるなら、貴方を護衛するけど。でも、僕には、まだ、貴方からどうしても聞きたいことがある」
「公私混同はヤメロ」
「――言いたくないのなら、それでいい。とは、言わないから」
 視線をそらしていたのだが、しばらく、アルフォンスからの無言の圧力に、エドワードは耐えきれなくなって、顔を上げた。

「…オレが、おまえの良さを、潰しているのなら、おまえはオレの副官を辞めたほうがいい――そう、思う」
 思ってもみないことを言われて、アルフォンスは目を瞬かせた。
「え、なんの、話し…?」
「中将に言われた。『優秀だと知りつつも、それを隠している。他人に知らせて、それを認めさせねば、やつは一生おまえの陰に居続けるだろう』、『おまえが前に出て、さらに弟は自分の不甲斐なさを感じる』中将のセリフ抜粋」
「僕は、自分のことを不甲斐ないと思っているのは事実だし、貴方よりも劣っていることは、分かっている」
 きゅ、とエドワードの眉間に皺がよった。
「だけど、他人に『兄さんが僕を潰している』と思われているのなら、それは僕が悪い。僕が十分な働きをしていないから」
「違う!そうじゃない!」
 拳を握ったエドワードの手が、ぶるぶると震えている。
「怖いんだよ、オレが…」
「何を、恐れてるの」
「…『兄さんがいなくても、僕はできる』そういって、おまえが離れて行ってしまうことが!だから、オレは、おまえより前に出てしまうんだ!きっと…おまえには、できないから、オレの後ろに居ろって、きっとそう思ってる!無意識のうちに!」
 震えの止まらない拳に、アルフォンスの手が重なった。
「それは、違う。貴方は、後ろにいる僕を守ってるだけじゃない。隣にいる、僕にも、相談してくれてるでしょ」
 アルフォンスの手からのぬくもりに、エドワードの震えが……
――止まって行く。
「僕は、貴方の『副官』だから、そう思われているかもしれない。だけど、貴方だって、了承しているでしょう?次は、大総統秘書官になることを。一人立ちを迫られたから、僕は次にそこへ行くつもりではいる。だけど、今、貴方に副官に任を解かれるようなことは、していないよ。僕は、兄さんが傍にいなくても、『仕事』はできると思う。だけど、貴方がいなくなったら、僕は僕でいられないよ」
 エドワードの手を握って、その兄の手のひらを開き、自分の頬に触れさせる。
「中将に何か言われたら、言い返すのが兄さんでしょ。らしくないよ」
 兄の手の平に、そっと口づけ。
「オレ、らしくない…?」
「うん。もっと、兄さんは自信もって、きらきらしたお日様みたいだよ。悩むこともあるけど、それでも僕を導いてくれる」
 されるがままだった、エドワードの手が、急にアルフォンスの手を握り返した。
「オレだって、人間だ。オレからしたら、お前の方が温かな太陽のよう――」
 ふと、エドワードはアルフォンスから視線をはずして、書面にむけた。
「?」
「太陽…と、月…」
「何か思い付いたの?」
「そうか…。サンキュー、アル!」
それっきり、再び解読に熱中してしまい、アルフォンスは苦笑をこぼした。
 兄の頭は、解読に支配されている。仕方ないとはいえ、少しだけ寂しさを感じた。
 だが、アルフォンスは自分のやるべきことがまだある。
今日は、自分が護衛するが、明日以降は誰かに任せるしかない、と考えていた。

 自分の悩みがすっと一瞬にして、アルフォンスの言葉で、拡散していった。瞬間、ひらめいた。自分にとって、アルフォンスはやっぱり、いなければならないし、頼りになる存在だ。
 守りたいと思うのも、やっぱり仕方ない。それを、アルフォンス自身が分かってくれているのなら、それで、いいのかもしれない…。
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