未来軍部11

□ヘドニズム
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「おっしゃ〜それ食って、もうちょっとガンバろ〜」
 やる気はではないが、やらざるを得ない状況だ。エドワードは、ぐん、と伸びをした。
「エド〜」
 エネルが入室してくるなり、数枚の書類をエドワードに渡した。
「ん?」
「出張に行ってる間に、こういった奇妙な事件が起こってたみてーなんだよ。ウチの隊が捜査してたようなんだけど、どうにもお手上げ状態で、泣きつかれたんだけどよ」
「こっちも現在、お手上げ。忙しいんだよ」
 書類をぽい、と放ったエドワードに、「そうだろうよ」とエネルもポリポリと頭を掻く。
「これ以上、死人を増やすわけにはいかねーだろ。綺麗な女ばっかりさ」
「死人?」
「おうよ。まあ、読めや」
 そういわれて、エネルに渡された書類に目通した。

「駅に女性の遺体?四人の犠牲者か…」
「ああ。共通点は、女で、長い髪、そして、ストッキングに穴があいてるってことかな」
「へっ?ってことは、変質者?」
「痴漢だという線は濃厚だ。どれも、汽車内が混雑している時間帯が多く、途中下車した駅で、殺されてる」
「…快楽殺人か?」
「暴行された痕はない。まあ、痴漢も暴行に近いだろーが」
「快楽殺人だとしたら、何か奪われたものとかないのか?そういった犯人は、装飾品などを持ち帰る習性があるだろ?」
「それは、今のところ確認はとれていない」
「日時、時間などに関連性は」
「毎週火曜日、昼過ぎの夕方近くだな」
「毎週火曜日?」
「ああ」
「ふうん…。じゃあ、オレが張り込んで――」
 そこで、エドワードのもつ書類が、第三者に奪われ、顔を向けると、そこには恐ろしく綺麗に頬笑んだ副官が。
「大尉、准将が今、どれほど大変か、わかってるでしょう?」
「分かってるが、エイジ隊では限界なんだ!張り込んでも、巻かれる始末で」
「おとりを立てるにも、エイジ隊には女性がいない」
「エイジに女装してもらえば」
「我が隊長も、大変な書類の山だ」
 まあ、そうだろ。と思ったエドワードは、ちらり、とアルフォンスを見る。
「確かに、これ以上死者が出るのは耐えられないので、火曜日まであと五日。その五日でなんとかこの書類を終えて、捜査します」
「げ…」
 この書類を五日で終わらせろと!?と、言う気力もなく、エドワードは
「じゃ、そーゆーことで、犯人の目星だけ付けられるように、エイジ隊に努力させといて」
「らじゃ」
 エネルが踵を返すと、エドワードはごん、とデスクに額を付けた。

「…おわんねぇ…」
「がんばろ。としか言えないよ、僕も」
 アルフォンスも同様に、自分のデスクにつき、ひたすら書くのだった。


 駅一つ…、やっぱり歩くべきだったかしら…
 マリィは、汽車内の混雑具合に、溜息をついた。子供二人を旦那に預け、友人の家に借りたものを返す為に、久しぶりに一人で汽車に乗ったはいいが、この混雑具合は頭になかった。
 時間をずらせばよかったわ…
 再び大きなため息をついたとき、ふと、気がつく。
 背中に垂らしている髪を、触れられている。
「…?」
 立った状態で、ぎゅうぎゅうと押されている状態なので、気の所為かもしれない。目的の駅まではあと少し。我慢してればいいか。
 だが、くるくると自分の髪が誰かの指先にからめられて、微かに鼻で嗅ぐような息遣いも聞こえてきた。
 と思うと、そっとスカートの裾を手繰り寄せられるような感覚が太ももに走る。
「!」
 ビ、とパンティストッキングが破られ、丸い穴が開いた場所から、芋虫のように這って侵入する指。
 キ、と眉を吊り上げて、その手を掴みとろうとしたが、何か硬い鞄のようなもので、おしつけられて、それ以上動けない。
 精一杯、首を後ろにむけて、自分を囲う人間の誰がそんなことをしたのか、と睨みつけたが、顔までが見えない。
 声を上げようとした瞬間、汽車のドアが開いて、人の波に呑まれ、いつの間にか自分も駅へ降り立っていた。
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