未来軍部11

□ヘドニズム
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「場所は?何両目だ?」
「そこは覚えてないとのことです」
「二人は、既婚者か?」
「はい。ビートンは妻が、ボーデンは妻と子供がいます」
「…住所教えて。行ってみる。エネル、ついてこい」
「はいよ」
 

 エドワードがビートン家を張り込んでいると、金色の髪の女性が花の水やりをするために、庭へ出てきた。どうやら、彼女が、ビートンの妻だろう。
「わ、すげ〜綺麗な花だね」
 突然、エドワードがその女性に話かけたので、隣にいたエネルは目を丸くする。張り込みだと思っていたからだ。
「あら、軍人さんでも、お花好きなの?」
「それ、偏見〜軍人だって、花を見たら、綺麗だって思う心はあるぞ?」
「そうよね、ごめんなさい」
 女性は、ふふ、と優しく笑った。
「天上の花、なんて呼ばれてる。リコリスよ。酷いこと言っちゃったお礼に、お茶でもいかが?」
「らっき〜」
 すのままスタスタと庭に入って行くエドワードを見て、エネルは、「エドワードらしい」と思ったが、「あぶねぇなぁ」、とも同時に思っていた。

 庭のテーブルに呼ばれて、紅茶とクッキーをごちそうになりながら、エドワードは女性の視線に気づく。
「ん?」
「綺麗な髪ね」
「ん?ああ、コレ?」
 長い髪を見つめられて、エドワードは口角を釣り上げた。
「髪にいい成分を塗りたくられてるからな」
 弟に、とは言わなかったが。
「いいわね。長い、髪」
「そういう、貴方だって、髪長いじゃん」
 女性は、自嘲気味に笑って、
「ウィッグよ…。主人が、長い髪が好きだから」
 そう触れた髪。女性が手をやった耳の辺りの下に、やけどのような痕を見つけたが、エドワードは何も言わなかった。
「そうやって、好きな人の為に長い髪でいてあげるなんて、いいね」
 一瞬、女性の顔が強張ったのも、エドワードは見逃さなかった。
「ふふ、そうかしらね。さ、このクッキーも美味しいわよ。どうぞ、食べてね」
 にっこり、と女性は笑った。
「ここにある花は、全部リコリス?あの、真赤な花も?」
 庭の半分以上が、燃えているように赤々としていた。
「ええ。あの赤く燃えるような花は、曼珠沙華だとか、死人花とかいろいろ呼ばれてるの」
「シビトバナ…」
「そう。東の島国では、忌み嫌われてるらしいの。綺麗なのにね」
「ホントに燃えてるみたい…」
 ぼそ、とつぶやいたエドワードに、女性は「ええ」と暗い視線を落とした。

 

 その女性の家からの帰り道、エドワードが無言だったのでエネルは、
「もう一件行くか?」
 と尋ねたが、
「いや、そこはおまえに任せる。オレ、一回、司令部に戻る」
「おう」
 何か考えがあってのことだろう、とエネルは何も言わなかったが、エドワードは急に走り出したのだった。



「アル」
「はい」
「ドロシー・ビートンを調べてくれ」
「はい…その人が、何か?」
「今回の容疑者の妻だ」
「妻?」
「ああ」
 帰還して早々それ以上何も言わない兄に、アルフォンスはため息をついて立ちあがった。

 そして、エイジ隊待機室にいると、アルフォンスが報告書を持ってきた。
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