未来軍部11

□アルフォンス・エルリック中佐の入室を禁ずる!
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やっとのことでついてきたエネルが、駅の構内にはいると汽車が滑り込んできた。
 もちろん、帰る為の汽車だ。

「まさか、この時間のこの汽車を狙っての、あの饒舌ぶりだったのか」
 アルフォンスは、にっこり、と笑って。
「だって、兄を怒らせたままじゃ、気になってそれどころじゃなくなりますから」
「おまえって、ほんっとにエド中心だな」
「何をいまさら」
 アルフォンスは、さっさと乗り込み、早く動かないかとそわそわしていた。


「あれ?早いお帰りですね」
 司令官執務室に持っていく為の書類を抱えたエイジと、廊下でばったりと出会ったアルフォンスとエネル。
 アルフォンスは、苦笑して、
「さっさと終わらせてきたんです」
 時間は、夕方六時をすぎたころだ。本来なら、八時か九時くらいになる予定だったのだが。
「そうですか、お疲れ様です」
 エイジは、にっこり、と笑って司令官執務室の扉を開いて入ってしまったが、その扉にはまだ、『I forbid admission of the Lieutenant Colonel Alphonse Elric!』の張り紙が。
 それをみて、はあ、とアルフォンスは大きくため息をついた。
「別に、施錠してあるわけじゃないんだから、入ればいいじゃん。だいたい、施錠してあったって、お前は入れるだろ」
「動かないんです」
「へっ?」
「護符や結界みたいに、入れないんです…」
 おいおい、これがさっき、憲兵の20も30も年上の男どもを言いくるめた男なのか?と思うほど、小さくなっている。
「あれ?入らないんですか?」
 エイジが扉を開くと、アルフォンスはむす、とした顔のエドワードと目があってしまった。
「入っても…いいのかな」
「ダメにきまってんだろ!」
 つん、とそっぽをむいたエドワードだが、エイジはクスクスと笑った。
「今日、昼食とってないんでしょう。帰られて、早く食事、とったらいかがです」
「仕事残ってるし」
 顔を上げずに、エドワードは書類を見る。
 エイジとエネルは苦笑して、「じゃあな」と行ってしまうと、アルフォンスは入り口で立ち止まったまま、じっと兄のうつむいた顔を見つめる。
「…あの、准将…?」
「ドア閉めろ。字が読めないのか」
「う…」
 アルフォンスは、静かに、扉を閉めた。

 わかってる。
 無理に入って、強引にしたって、兄さんは絶対に許してくれるって。
 だけど。
「拒否はつらいよ…」
 そう、あの張り紙もうそうだが、今朝兄が怒った理由だ。
 触るのを嫌がられた。しつこかったから、と思ったが、もしかして触れられるのが嫌だったのかもっ…!?
 僕の甘えた考えとしては、その…
 朝日に濡れたようにつややかに光る髪とか、朝の澄んだ空気同然の肌の透明感とか、すべてをゆだねて、安心しきった顔で、まどろみを彷徨うその表情とか、無視できるものじゃない。
 それに、久しぶりに自宅での、のんびりした二人だけの朝だったのに。
 しつこくしすぎて、嫌がられて怒られて。拒否されるなんて…バカとしか言いようがないよね。

 このままじゃあ、今日は帰らないでここにずっといるだろうな。
 そういえば、昼食も摂ってないって言っていた。朝も摂ってなかったはず…。

 
 アルフォンスは、廊下を速足で歩きだす。
「あら、中佐。帰るの?」
「はい。お先です!」
「エルリック准将、待ってたのよ、貴方のこと…」
 ソニックの二回目の言葉が聞こえなかったのか、振り向きもせず、アルフォンスは廊下を慌てた様子で行ってしまった。
「明日も冷戦かしら?」
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