「うぅー、…………さみっ」
今日も今日とて仕事を終わらせ、家帰ってきて風呂入って、ただ今ベランダで喫煙中。
暖房MAXの部屋では愛猫とプレイ中のBASARA4で選択キャラクターの佐助が魔王との決戦の前で停止して待っている。
家族全員喫煙者だと言うのに、家を建てて引っ越したその日から全室内禁煙令が出されたのだ。夏はまだしも、真冬のこの時期は辛い!!!だけど吸いたい!!!
ニコチン中毒者の悲しい葛藤である。
そんな葛藤をもうかれこれ三年以上続けている。
コレを期に禁煙できればなー、何て考えながら今夜もパジャマ代わりのスエットの上にダウンコートを着込んで、寒空の下タバコをふかしていた。
見上げた先は満天の星空。
吐き出した煙が冷たい風に溶けていく中、ふと思った。
「………佐助落っこちてこないかな。」
思っただけの筈が、その言葉は音を持って口から出ていった。
「………なーんてね。ないない。何言ってんだか。私は馬鹿か。」
時刻は日付変更線を越えた深夜。
外にいて聞こえるのは、家の近くに敷かれた国道を走っていく車のエンジン音と風の音だけだ。
呟く程度の自分の声が嫌に響いて恥ずかしくなった。
マジ何言ってんだ自分。いい歳した女が無意識に呟く台詞じゃないだろ今の。
誰に聞かれたわけではないが、照れ隠しに独り言を吐き出し、体も冷えてきたしそろそろ部屋に戻るか、としゃがんでいた状態から腰をあげようとした時、
「はいはい、呼んだー?…ゲホッ」
「………………」
目の前に逆さ男が現れた。
その男の顔は窓越しにベランダに差し込む室内の明かりでよく見える。
恐ろしいほど整った顔立ちに長めの茶色い髪の毛。
鼻と頬にフェイスペイント。
身を包むのは迷彩柄の、………ってこの説明要らなくね?
とどのつまり、アレだ。
一言で言えば、現在進行形で部屋のテレビ画面に映って私がコントローラーを握るのを待っている筈の佐助が居た。つい数分前まで織田信長と明智光秀を倒すために襖をバッサバッサと斬り倒していた猿飛さんが。私が下手くそなばかりに爆弾兵に散々吹っ飛ばされた佐助さんが。襖の壊し忘れないかなって同じ道を右往左往させていたさr、
「長い長いゲホッ…長い!!!それ一言じゃなくなっちゃっゴホッ…てるから!!!」
……私の妄想通りツッコミ属性の猿飛佐助が、目の前に。
「……………あちっ!!?」
体硬直で脳みそフル回転だった私の意識を戻したのは目の前のイケメンではなく右手の痛み。ってゆうか右人差し指と中指の先っちょが火傷した痛み。イコール、タバコで指先根性焼きである。
タバコの存在なんて忘れてたよ。さっきから噎せてたのって煙のせい?位置的に煙全部浴びてたもんね。
ってか指痛いんだけど。ジンジンするんだけど。
タバコの温度ナメたらだめよ。
腕に焼き切った跡ある人とか内心馬鹿にしてたけど、マジ根性あんね。これは無理だわ。
まぁ、いくら根性あろうがそんなもん馬鹿は馬鹿だと思うけど。若いときはいいけど歳とってから後悔するよー。若気の至りって恐ろしいよー。
「ねぇ、無視なの?」
「……ちょっと現実逃避してみた。」
最早フィルター部分しか無くなったタバコを灰皿に押し付ければ斜め上から聞こえた声。
……これ幻覚じゃないんだね。私の妄想の産物じゃないんだね。夢でもないんだね。だって指痛いもん。
「……マジもん?」
「え?なに?」
「本物の猿飛佐助さんですか。」
「うん。」
「……………」
え、どーしよコレ。私どうしたらいいの?
「えーっと、………佐助帰んないかなー、」
「うん。無理だね。」
「……………」
私の佐助落っこちてこないかな発言が原因だと考えて言ってみれば、即答で返された。
無理なんですかそーですか。…融通きかねぇな!!!
因みに目の前の彼は本物だと思う。
だってマジでいきなり現れたし。逆さ吊りだし。ここ2階だし。ベランダだし。兎に角普通の人間じゃあり得ない登場の仕方と状態だし。
なにより見間違える筈無いし。今までどんだけ見てきたと思ってんだ馬鹿野郎。……ごめんなさい八つ当たりです。
それはいいんだよ。本物なのはいいんだよ。いや、よくないんだけど。怖いけどめっちゃハイスペックのレイヤーさんとか異常行動起こした人とかの方がよかった。だってそっちのが対処のしようがあるじゃないか。
1、叫ぶ
2、逃げる
3、やっつけてみる
4、通報する
みたいな。
だけど実際本物が現れてみ?
コレどうしたらいいのか全くわからないんですけど。夢小説は所詮夢小説なんだよ。夢だから何でもありな訳で、リアルじゃそうゆう訳にもいかないんだよ。軽々しく"来ちゃったもんはしょうがないからウチ来なよっ☆"なんて言えねぇよ。言うだけでいいならいくらでも言えるけど。その後の責任とらなくていいなら言えるけど。
「…………………あの、」
「ん?」
「寒いんで部屋戻ってもいいですか。」
「うん。どーぞ?」
取り合えず一人で考えたいです。
続。