帽子屋†

□テーブルに紫陽花を★
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朝から柔らかい雨が降っていた。

帽子屋はそれを、椅子に腰かけてぼんやりと眺めていた。


屋根がついているので帽子屋が濡れる心配はないのだが、テーブルはびしょ濡れだったので、流石の帽子屋もお茶会を開けそうになかった。


無意識に、もう何度目か分からない溜め息を切なく洩らした。


目の前に広がっているのは―様々な深みのある―青い紫陽花。


青一色の視界に突然一輪の赤い花が目に入った。
…よく見たら、赤い傘だった。
さしていたのは…

「…ア、アリス?!」

思わず立ち上がって叫んでいた。

「やっぱり、いた〜。」

水溜まりを軽やかに避けながら笑顔で、アリスが近付いて来た。
一気に帽子屋の体温が上がる。

「…なっ、なっ!なに、雨の中傘さしているんだ?!」

動転のあまりにわけの分からない事を口走る帽子屋。

「雨だから傘をさすんだよ?
そりゃ、屋根の下にいる帽子屋には必要ないとは思うけどね。」

真面目な顔でアリスが返すから、余計に帽子屋は焦ってしまう。

「ばっ、馬鹿アリス!
そういう事が言いたいんじゃなくて、なんで雨の中、こんな所に来ているんだ、って事が言いたいんであって!」

空回っている帽子屋とは反対にアリスは至って穏やかに微笑みながら、

「紫陽花を見に来たんだよ♪」

と言った後に一瞬躊躇ったが、ポツリ、と

「…それに、なんとなく、帽子屋がいるような気がして…」

頬を染めながら足下を見つめてアリスが呟いた。
帽子屋はガチッ、と固まってしまった。

アリスが慌てて

「き、綺麗だなぁ!」

と言った。
自分の台詞で少し落ち着いたのか、続けて

「お天気の良い日に見る紫陽花も好きだけど、雨の滴を受けている紫陽花も好き。
なんだかイキイキしているし、こんなにたくさんの青い紫陽花を見ていると海の底にいるみたいで、幻想的…」

うっとりとしながら言った。

「帽子屋も紫陽花を見に来ていたのでしょう?」

小首を傾げながらアリスが尋ねた。

「も、もちろんだよ!
馬鹿だなアリス。雨の日に紫陽花を眺めるのは常識だよ!」

帽子の下で真っ赤になりながら言った。

「そっか♪」

嬉しそうな笑みを浮かべるアリス。

(ホントは…来ないはずのアリスを待っていた、んだけどな。)

にやついてしまう口許を長い袖で隠しながら、思う。


雨は降り続いていたが、帽子屋に降る雨はすっかり上がっていた。


アリスが持って来た、ポットのおかげで2人きりの、思いがけないお茶会も開かれたとかいう、ある雨の日の昼下がり†



*fin*
とっっても綺麗な紫陽花を見て来ましたので(o^艸^o)♪
最後まで読んで下さって感謝です☆★


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