女王様†

□貴女の為に★
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料理は作って貰って当たり前だった。

『料理の時間』なんて、生活どころか人生にすらなかった。必要のないものだったから。

それもこれも、作ってあげたいと思う相手がいなかったからなのだと、最近気付いたのだった。


「ああっ!もうっ!!」

キッチンに、愛らしい声に苛々したものを滲ませた少女の声が響く。

時折、首を、本来の意味通り、引っ込めながらウミガメモドキは根気よく少女に教える。

「女王様、一旦火を止めなくてはなりません。」

「なんですって?!
こちらの方が早く溶けるじゃない!」

きっ、とにらみつけてくる目に怯む事なく(それもこれも、ここで頑張る事がひいてはアリスの為に繋がるから)そう思って頑張って耐える。


「いきすぎてしまうのですよ。
ここは時間をかけてゆっくりと溶かすのです。」

「…分かり…ましたわ。」

ちっとも分かっていないような、低い低い声で、女王が答えた。

(なんとしても作り上げてみせますわ!)

ただその一念で女王はウミガメモドキの指導のもと、頑張るのだった。


数時間後、ウミガメモドキの寿命と体力、精神力をかなり奪い取って、女王が歓喜の声をあげた。


「出来ましたわっ!!」

誇らし気に輝く女王を、若干こけた頬のウミガメモドキが微笑ましく見守った。

(ご立派になられて、私、嬉しゅうございます。)

ひっそりと、涙をぬぐったとか、ぬぐっていないとか。

「ご苦労でしたわ。」
キラキラした瞳で、そう告げると女王はキッチンを後にした。


足取りも軽く、女王は目的地を目指した。

「アリスっ!」

その声にお茶会の準備をしていたアリスが振り返った。そして、

「女王様。こんにちは。時間ピッタリだね。」

ニコニコと笑顔で挨拶した。

「ああっ!アリス会いたかったわ!」

と、いつもの勢いで抱きつきかけたが、

「そうだわ!今日はちゃんと持って来た物があるんですわ。」

首を傾げるアリスに、女王は満面の笑みで、

「大好きですわ!アリス。
そしてこれが、ハートのチョコですわ。」

得意満々に綺麗にラッピングされた箱を差し出した。

「……えっと…。嬉しいけど、一体全体どうしたの?」
困惑顔のアリス。

「だって、好きな人にお呼ばれされたら、自分の気持を伝えながら、ハートのチョコを渡すのが人間界の習慣なのでしょう?」

きょとん、として女王が言った。


「…なんだか、微妙に間違ってるみたいだけど…。
そんな事、誰に聞いたの?」

「それは、猫に…。
…っ!」

にんまり顔のチェシャ猫を目に留めて、女王はハッと気付いた。

「猫!!騙したわね?!」

「なんの事だか分からないね。
…あぁ。ちょっと説明が足りなかったかもしれないね。」

「そういうのを、騙したって言うんですわ!!」

手近にあったカップや皿をチェシャ猫目がけて投げつけた。

「何するんだっ!食器は投げる物じゃないって、何度言えば分かるんだ!」

帽子屋の怒鳴り声が響いた。

「…どうして毎回、こうなっちゃうのかなぁ。」

やや、遠い目をしてアリスが呟いた。


結局、アリスが女王のチョコを喜んで食べる姿に女王は機嫌を良くし、代わりに猫はムッとし、食器がこれ以上割れない事に帽子屋はホッとしたのだった†



*fin*
登場人物が増えると、その分長くなる、という事を学びました…。
最後まで読んで下さって感謝です☆★


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