NOVEL

□捨て猫
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例えるならそう、空気を掴んだんだ。何度も何度も頑張ってみるけどそれには形が無い、故に実感がなく。なんて無駄な行為なのだろうか、と貴方なら笑いますか。‥痩せこけたその頬で一体どうやって笑うと言うのだ、馬鹿馬鹿しい。苛々しだした私は思わずデスクを蹴飛ばした。全く勝手なお方だ、あれだけ私達を利用しておいて勝手に居なくなるなんて‥

「……」

蹴飛ばしたデスクの傷を見ると虚しさが染みてきた。薄く剥げた銀が責める様にチラつく、嗚呼なんて忌ま忌ましい。思わず腕を強く握ると鈍い痛みが走る。白い爪に赤い液体が入り込んでは自己嫌悪。なんて負の連鎖だ。今度は口の中から血の味がした。そう言えばあの人との接吻もいつも血の味だった。少なくとも今よりはずっと甘く、苦くて悲しくて、ずっと、切なくて‥私を、とろけさせた。
なんて甘い夢だったのだろう。今この現在全然甘くなんて無い、ただの血の味だ。ただの鉄の錆びた、不快な味だ。そしてそんな気分もお構い無しに銀色が視界にチラつく、嫌になった私は赤い爪で銀色をなぞった。掠れた銀に薄く赤が乗る、指で擦ると赤が伸び、銀と馴染む。
綺麗だ。素直にそう思った。その時だった、後方から何かを叩く様な音がして何かが開いた。足音が室内に響く。一歩、又一歩近付いては擦れる音を揺らして空気が混ざり合う。私しか居ない部屋に異物が導入される、嗚呼気持ち悪い。吐き気すら覚えた所でどさっ、と荷物を置く音が後ろでし振り向くと茶色の髪を揺らした少女が笑っていた。

「こんにちはサターンさん、今日のお弁当です」
「‥また来たのか」

口に溜まった鉄を飲み込み言うと少女は笑う。不快だ、この味もあの方も眼前の女も、皆皆

「よくもまあ飽きないものだな」
「お金ならいっぱいあるんで」

無邪気に笑いながら凄い事を言う(しかし私としてはその金を研究費用に費やしたい所だ)
今日も今日とて少女はころころ笑いながらコンビニ袋から次々とおにぎりやら飲み物を出していく。私の気持ちとか少し理解していただきたい。

「サターンさん、昆布とカツオどっちが良いですか?」
「……シーチキン」

コンビニ袋の中に残された青いラベルを私は見逃さなかった。昆布やカツオも好きだが私はそれよりシーチキンが好きだ。
すると彼女は少し驚いたように笑い、それを出した。話によるとそれは彼女の分だったようだ。しかしそんなものお構い無しに私は青いのパッケージをびりびり破き食べる。マヨネーズとシーチキンのまろやかさとしょっぱさが口いっぱいに広がって、血の味が消えた。

「サターンさんシーチキン好きなんですね」
「‥人並みにはな」

残った昆布のおにぎりを頬張りながら彼女は言った。カツオは私が貰う事にした。

「‥何故私に構う」

自然と出た疑問。いつも思っていた靄。毎日毎日飽きずに訪れる女はいつもにこにこ笑っていて何も知らなさそうで怖くて聞けなかったクエスチョン。だが、今なら聞けそうな気がする。そんな淡い期待を持って問い掛ける、何故私に構うのだ!

「だって、サターンさん」

にこにこ笑っていた顔がこちらに向けられる。長い睫毛から緑色の瞳が覗くと彼女は言った、

「捨てられた猫みたいだったから」

成る程、よく解った。
そしてどう言えば良いのかよく解らなくなった。‥出来ればそうだ、穴が有ったら入りたい。





捨て猫
(全く、どっちがだ!)



悩んだ割にはよく分からない出来になってしまいました。わぁわぁ。

1100711 蒼木 ゆう
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