NOVEL

□君と窒息して溺死。
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「私、コンテストが好きなの」

白銀の糸を揺らした少女が言った、青い少年は静かに頷き次の言葉を紡いだ。

「うん、知ってる」
「ロクもバトルよりコンテストだよね?」

橙色の瞳に少し光が射した、ロクと呼ばれた少年はまた静かに頷き答える。

「そうだね、コンテストは綺麗だから」

その言葉を待っていたのか少女はにこり、と笑いやっぱりそうだよね、と言う。それは自己満足の様な物だった。そしてそれは自己暗示に成るのだろう。少年はそれを知った上で答えているのだ。そして次に紡がれる少女の言葉は、

「私は嫌な子なんだ」

やっぱり、と少年は思った。少し息が重たくなる様なこの感覚の名前を少年は知らなかった。

「他人なんて皆どうでも良いと思ってるし死にたいなら勝手に死ねば良いと思ってる。‥流石に目の前で倒れてたら助けたりとかはするけど」
「うん」
「…それに卑屈なの、自信とか無いの。鏡で自分を見る度に嫌になるの」
「じゃあ見なければ良いじゃない」
「でもお洒落する時とかどうしても見るの」

ほら、と言いながら少女は髪をなびかせる。持ち上げられた髪がさらさらと重量に従って降りる様はまるで予め計算された様な美しさで思わず息を飲んだ。
少女は己を着飾る事に対してとても貪欲だった。マスカラをたっぷり塗った長い睫毛も毛穴なんて無い様に見せるファンデーションの上に赤く乗せられたチークも艶めかしい薄桃のリップも全部全部着飾りだ。

「着飾りたいの、沢山沢山着飾りたいの」

上げた悲鳴は枯れていて潤いを知らない様だった。しかし少女はその小さな悲鳴を響かせる、どうしてほしいのか少年はまだ分からない。

「着飾れば皆見てくれるから、こんな私でも見てくれるから‥卑屈で根暗で消極的な私でも輝ける、相手にしてくれる。だから私はコンテストが好き、ロクだって‥」
「違うよ」

自分に酔ってべらべらと語り出す少女に突き付けるかの様に否定する少年の声色ははっきりとしていた。

「僕はルコが着飾っても着飾ってなくても一緒に居るよ」
「‥でも普通はさ、お洒落な女の子の方が良いじゃない」
「まぁ、確かにお洒落かお洒落じゃないかって言われたらお洒落な方が良いよ」

やっぱり、と少女が言おうとするとすぐにでも違うでしょ、と少年は紡いだ。その直後少年はポケットに手を入れるとハンカチを取り出し少女の唇に押し付けた。

「だからと言って僕はルコの内面を否定するつもりなんてないし、ルコもそんなに塗りたくらなくても良いと思うよ」
「む、ぅ」

ごしごしと少々乱暴に少女の唇のリップを取る少年は淡々と話していく。こんなに喋る少年が珍しいのか少女は少し驚いていた。

「僕さ、知ってるよ。ルコこの後死にたいって言うつもりだったんでしょ?」

違う?と言いながら少女の顔を覗き込み少女を見つめると少女は泣きそうな顔で黙り込んでいた。否、ハンカチを退かすと微かに声が漏れて、それが耳に届くのに時間なんてものは必要なく、少年は少し微笑んで言ったのだ。

「だからさ、化粧する時は僕に頼んでよ」

橙色の涙が落ちた。





君と窒息して溺死。
(重たくてもきっと慣れるよ)



自分に自信が持てなくて卑屈になっちゃった死にたがりのルコと包容力のあるロク。この後ルコはロクの前でだけ方便で話す様になります、とか。

100512 蒼木 ゆう
 

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