NOVEL

□くじら
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真夜中のテレビ程どうでも良い事なんてないだろう。もう良い年をした大人達がくだらない事をぐだぐだだらだら喋るのを僕は横で聞き流していた、手元には沢山の資料とパソコン。自慢のデスクトップ型だ。深夜二時、僕はこの資料とパソコンでフロンティア内に異常がなかったかチェックする、大人達の会話は時折入ってきて眉間に皺が寄る。ならテレビを消せば良い話なのだろうが何か雑音がなければ落ち着かない、それが深夜の僕だ。つまり昼はどうってことない、寧ろ雑音なんて無い方が落ち着く。そんな時だ、テレビから恋人達の話が漏れた。一瞬動かなくなった指が再起動すると今度は耳がログアウトした、正しくはテレビの方へログインした。
次々と恋人達が語る話はくだらない事だが興味が惹かれた。カタカタとパソコンを打つ指が遅くなる。脳内を占領するのは勿論茶色の髪を二つに束ねた彼女の事。緑色の丸い瞳に僕を写して笑う彼女の髪の色、柔らかい笑顔を最後に見たのはいつだったのか。と、うとうとしていたらビーーーと大きな音が耳に入って来て一気に目が覚める。目の前にはERRORと書かれた文字が大きく表示されている。

「はぁ‥」

目の前の大きな山を見てうなだれ、僕は今日をログアウトした。おやすみ、ばいばい僕の楽園。

「‥ブレーン」

機械音が響く室内は真っ白。そしてそれは一定の時間を置いて言う。(ブレーン、ブレーン)
聞き慣れた機械音が僕を呼ぶ、もう朝かと思うと気が重たく沈んだ。どぷん、深い海に沈む感覚に僕は泣き出しそうになった。誰か助けて。悲しさが染みてきて視界がぼやけたと思えばそれはまた落ちてまた染まっていくのを僕は眺めていた。

「ブレーン、オ客様デス」
「え、?」

シュン、と自動ドアが開くと茶色の髪と緑の瞳、そこまで確認するもなく僕は彼女に抱き着いていた。ごん、と鈍い音がして下から小さな叫び声を聞いた時にはもう遅かった。

「いったたた」
「す、すみませんちょこさん今すぐどきます」

慌てて体を上げようとすると右腕が捕まれたかと思うと目の前に緑色が近付いた。彼女の顔はいつになく真剣で思わずどき、とした。

「ネジキ君、泣いてるの?」
「あ、えと」

涙を拭かなかった自分に後悔した、格好悪いだろう。泣いてるなんて言える訳無く狼狽していると彼女はいつも通りの笑顔でふふ、変なネジキ君。と言った。いつもの彼女に安心した。

「所でどうしてここへ?」
「うん?ネジキ君が泣いてたからだよ」

にっこり、またいつもの笑顔を浮かべて吐かれたのは己への心配。申し訳ない気持ちになった。と、彼女は今度は少し困った顔をしてこう言った。

「嘘。本当はあたしが会いたかっただけなんだ」
「…え?」

少し俯きかけた顔を上げると今度は愛しいようなものを見るような目の彼女が居て、そして手にはグランシデアの、

「昨日、夜中のテレビで言ってたんだけどね‥」





くじら
(今日も明日も明後日も、君に会いに行きます)



お互いがお互いに会いたいネジちょこ。

100416 蒼木 ゆう

 

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