短編小説
□予感。
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「それじゃあ、ばいばい。」
彼女といつものように別れる。
いつものように笑顔で手を振って俺に背を向けた。
でも、その日だけはいつもと違うような気がした。
まるでそのまま彼女が手の届かないところへ行ってしまいっそうな、胸がきりきりとする既視感に襲われる。
思わず名を呼ぶ。
「美貴。」
突然切羽詰まった声で呼びとめられて、きょとんとした顔で振り返って首をかしげた。
「なに?どうしたの?」
特に何があるわけではない。
でも、顔を見たら余計に不安が心を締め上げる。
しかし、何がそう思わせるのか分からないし、何も起きないかもしれない。
むしろ、何も起きない可能性のほうが高い。
だって今日もいつもとなんら変わらない日だったし、別にこれから何かが起きるわけがない。
いつの間にかドクドクと活動を主張する心臓を抑えながら何食わぬ顔をする。
「いや…なんでもない。また明日な。」
「…?」
しばらく不思議そうな顔を俺に向けていたが、
「うん。また明日。」
そう言って、再び背を向け歩きだした。
その後ろ姿を眺めながら自分を無理やり納得させる。
―――そう、何かあるわけがないじゃないか。―――
しかし、その楽観は外れ、嫌な予感は見事に当たってしまったのだ。