短編小説

□予感。
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俺は走った。

傘もささずに。

今の俺に傘なんてわずらわしいものは必要なかった。

走った。

ただひたすらに。

雨が俺を嘲笑う。

それを振り切るように走った。

そしてたどり着いたのは………事故のあった交差点。

そこには彼女がいた。

傘もささずに。

花が供えられた信号機の横に今にも消えそうに立ってうつむいている。

おれが近づいても気づかない。

この世から切り離されたものなのだから互いに気づけないのは当たり前だ。

それでも届くことを願って名前をやさしく読んでみた。

俺に気づいてくれ。

「美貴。」
 
反応はない。

雨が俺たちを嘲笑う。

もう一度名を呼ぶ。

「美貴。」

今度は彼女に声が届いたらしく、顔をあげる。

そしておれの目をまっすぐ見つめ、大きな目を見開いた。

「あき…ら?なんでこんなところにいるの?」

「なんでって、美貴に会うためだよ。」

そういうと彼女は泣きそうな顔で、でもそれをこらえて怒った。



「だめだよ!こんなところにいたら……。

だって………だってあきらは…


……………


死んでるんだよ?」







「……うん。」






そう。






交通事故で死んだのは







俺。




  
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