切ない5題

□不安不安孤独
1ページ/6ページ

「三橋、行こう」
三橋は不安げな表情で、今出たばかりの寮の玄関を振り返った。
阿部はその肩に腕を回して抱き寄せ、安心させるようにポンと肩を叩いた。

あの晩、阿部は三橋の部屋が見渡せる通路でひっそりと張り込んでいた。
大きな柱の影。ここなら三橋の部屋も、あの正捕手だった男の部屋も見渡せる。
どちらかが部屋を出ればわかるし、柱で身を隠しやすい。

先に動いたのは男の方だった。
廊下に出て、辺りをキョロキョロと見回した。
周囲に誰もいないことを確認しているのだろう。
そして三橋の隣の部屋に入っていく。
なぜ三橋の部屋ではなくて、隣の部屋に?
三橋の部屋の隣は確か空室だったはずだ。
不可思議な男の行動を訝しく思った阿部は、後を追った。

壁の一部を外して、男は三橋の部屋に侵入した。
阿部は隣室に身を沈めて、デジタルカメラを取り出した。
男が何か三橋に不埒なことをするようなら、それを押さえてやろうと持参したものだ。
本当はすぐに男から引き離して、抱きしめてやりたい。
だがこのことで何か言い立てても、男の部内での人気と信頼は絶大なものだ。
どうなるかはわからないが、証拠を押さえておいた方がいいだろう。
三橋と男のやりとりを、ジリジリする思いで撮影した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ