ヒルセナ10題

□バカな子ほど可愛い
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「大丈夫?」
金剛阿含はドレッドヘアを揺らしながら、サングラスを外した。
そして小柄な少女の目線の高さに身を屈め、ナンパ用の笑顔を作る。
先程ヒル魔から久々に送られたメール。
写真は微妙に焦点がボケていたが、痴漢をされている少女は可愛い感じだ。
ピンクのニットの帽子が色白の小さな顔によく似合っている。
これは期待できそうだと、神速のインパルスよろしく駆けつけたのだった。

「阿含さん。。。」
だが少女から出たのは信じられないセリフ。自分の名前だった。
訝しげに痴漢をされていた少女の顔を覗き込んだ。
「テメー、泥門のチビっかすか!」
阿含は唖然とした表情で、マジマジと少女を見る。
「すみません。。。」
少女−ではなくセナは恐縮してペコリと頭を下げると、恥かしそうに俯いた。

きっかけは些細なことだった。ヒル魔との初めてのデート。
何を着ていこうか、いっそ新しい服を買おうか。
そこで見つけたのは、去年まもりからもらったピンク色のコートだった。
ちょうど1年前。まもりは新しいコートを買ったからとこれをくれた。
そしてこのコートに合うから、と同じ色のニットの帽子も。
まもりの厚意は嬉しいが、こんな女の子みたいな服は恥かしい。
だからせっかくのコートも帽子も着られることなく、セナの部屋のタンスで眠っていた。

世の当たり前のカップルのように、腕を組んで歩きたい。ピンクのコート。
その2つのキーワードがセナの中で合わさった結果がこれだ。
恥かしいのを我慢して、黒に白のチェックが入ったスカートを買った。
そしてこの冬、母親が新調してくれた白いセーターを合わせた。
凝ったメイクなんかできないから、ほんのり色がつくリップクリームだけ塗った。
そして癖のある髪をニットの帽子に押し込んだ。靴は通学用のローファーで間に合わせ。
かくして「女の子セナ」が出来上がった。
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