ヒルセナ10題

□21番の重さ
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「お疲れ様」
ドリンクを配っていたのは大学生くらいの見慣れない小柄な青年だった。
周りのチームメイトに誰?と聞くと卒業生。今日はマネージャーが休みなのだ。
それを知ったたまたま来ていたOBが「元主務なんで」と言いながら
そんな仕事を買って出てくれたのだという。

「最後残念だったね。でもいいプレーだった。」
彼は僕にドリンクを手渡すときに、そう言って笑った。
「でも負けちゃったし」
僕は少し八つ当たり気味に言った。まだ悔しさで胸がいっぱいだったから。
「次、勝てばいい。」
その人は事も無げにそう言った。
「いつになったら試合に出られるかなぁ」
僕の問いかけにその人はまた答えてくれる。
「ちゃんと実力がついてから試合に出るって大事なことだと思うよ。」
僕はその答えに「え?」と首を傾げた。
「僕なんかルールもよくわからないうちに出されちゃって大変だったよ。」
「そうなんですか?」
「うん。運動靴で出ちゃって派手に滑るし、しかも敵ゴールに向かって逆走するし。」
その人が優しく笑う。落ち着いて見えて案外ドジなんだ、この人。でも。

「あれ?主務だったんじゃ。。。」
「最初はね。主務になれなくて、選手にさせられちゃったんだよ。」
その人の笑顔が照れくさそうなものに変わった。
「僕が入部した頃、デビルバッツは人数が足りなくて、試合に無理矢理出されたんだ。」
「へぇぇ」
「メンバー集めがそもそも大変でね。他の運動部を回って。頭下げて、助っ人頼んでたんだ。」
意外な事実。創部2年目でクリスマスボウル出場と聞いていた。
さぞかしメンバーに恵まれていたのだと思っていた。そんな苦労があったなんて。
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