ムサまも5題

□無愛想
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部屋の中を一通り見回した少年−セナは、窓際の机に向かって座った。
そして3段ある引き出しのうち、一番上段の取っ手に指をかけて引いた。
だが引き出しはガチっと音を立てて、開くことを拒否していた。
どうやら鍵がかかっているようだった。

「あ、その引き出しは鍵がかかってて開かないのよ。」
瀬那の母親が声をかけると、セナは振り返ってこちらを見た。
「瀬那が鍵をどこかにやっちゃったみたいで、その引き出しは開かないの。」
まもりにともセナにともつかない口調で、そう付け加える。
「じゃあもう10年間、開けてないんですか?」
まもりの言葉に、瀬那の母親は「そうなの」と同意して、頷いた。

セナは小首を傾げてしばらく何かを考えるような表情をしていたが、すぐに笑顔になった。
そして立ち上がると、本棚の間から一冊の雑誌を引っ張り出す。
それは10年前のアメフト雑誌で、高校時代の泥門デビルバッツの特集が載っているものだ。
セナはパラパラと雑誌を繰り、真ん中あたりのページを開く。
そしてページの間に挟まっていた小さな欠片のようなものを取り出した。

まもりや瀬那の両親の唖然とした様子など、目に入らない様子で。
セナは慣れた様子で、取り出した小さな欠片を机の鍵穴に指して、回す。
そして10年間、閉ざされていた引き出しはあっけなく開いた。

この子はいったい誰なの?
まもりは混乱と恐怖で、手が震えていた。
ヒル魔は瀬那が生まれ変わって戻ってきたのだと言っていた。
でもそんなことはありえないと思っていた。
だが発見された時に握っていたピアス。
そして瀬那しか知らないであろう引き出しの鍵の在り処を知っていた。
まもりは言葉もなく、開いた引き出しの中を探るセナを見ていた。
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