理性と本能8題

□押し殺した本能
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放課後に校門を出ようとした瀬那は、ふと校庭に視線を送り、目を見張った。
視線の先には、深緑の制服の上着を纏った長身の青年。
蛭魔妖一が友人であろう男子生徒と並んで歩いている。
スーツ姿とは雰囲気がまるで違う。
年相応の青年が、楽しそうに談笑していた。

蛭魔様も学校ではあんな感じなんだ。
瀬那はその姿を見て微笑した。
まもりのクラスメートと聞いていたから、同じ学校なのだとは知っていた。
それに放課後、制服姿の蛭魔に声をかけられたこともある。
だが実際に校内で姿を見るのは初めてのことだった。

瀬那たちが通うこの学校は、政財界の実力者の子供たちが多く通っている。
蛭魔はその中で、それなりの人脈を築いていた。もちろん将来を見越してのことだ。
その風貌や派手なパフォーマンスから、校内では有名人だ。
だが瀬那は、入学して間もない上に友人を作ったり人と関わることを避けていた。
「仕事」をするようになったせいだ。
自分のような人間は友人を作る資格なんかない。
仮に友人が出来ても「仕事」のことを知られて軽蔑されてしまったら。
そう思うと自然に態度も暗くなり、笑いの輪から遠ざかる。
だから蛭魔の校内での様子などは全く知ることがなかった。

だがしばらく蛭魔に見蕩れていた瀬那は、蛭魔と談笑する男子生徒の顔を見て凍りついた。
昨日客として現れて、でもライターだと名乗り、瀬那に指1本触れずに帰って行った男。
老け顔の彼がまさか高校生で、しかも蛭魔の友人だったとは。
でも何故と考えて、瀬那は絶望的な事実に突き当たった。
蛭魔は瀬那を調べさせて「仕事」のことを知ったのだ。

望みのない恋だとわかっていた。でも知られたくなかった。
瀬那はこみ上げてくる涙を振り切るように、校門を飛び出しだ。
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