ヒルセナ10題

□バカな子ほど可愛い
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まさか、そんな。
最初は気のせいかと思った。だが確かにその手は邪な意志を持っている。

初めてのデート。待ち合わせ場所に向かう途中だった。
休日の朝の電車は意外に混んでいる。
普段乗っている電車なのに、雰囲気が違っていた。
何か違和感があって落ち着かないのは、電車のせいか。
それともデート用に普段着ないような服を着て来たせいだろうか。
そんなことを考えていたら。
スカートの上から誰かの手がお尻に触ってきた。

最初は気のせいかと思い、次は混んでるせいだと思おうとした。
だがその手は明らかに目的を持って触っている。
なんでよりによって、初デートの日に。痴漢なんて。
生まれて初めての経験に、驚いて声も出せない。
恐る恐る振り向くと、中年の男性がニタニタと笑いながらこちらを見下ろしていた。
思わず息を飲む。怖い。表情で怖がっていることが相手に伝わってしまった。
手の動きがだんだんと大きくなり、触るから撫でる、に変わった。

電車が途中の駅に停まった。目的地はまだまだ先だ。
1回降りようか?
いや身支度に思わぬ時間を取られてしまったから、待ち合わせ時間ギリギリだ。
迷いが動きに出たのだろう。
男は背後からコートの胸倉を掴んで行く手を阻んだ。
そしてスカートの上を這っていた手がスカートに侵入してくる。

どうしよう。このままじゃ。でもどうしていいかわからない。
その瞬間、電車の窓ガラスが割れた。そして割れ目から太い腕が突き出されて。
その腕がコートの胸倉で行く手を掴んでいた痴漢の手首を掴み、引っ張った。
痴漢をしていた中年の男は、ガラスが割れる激しい音と共に車外へ引きずり出された。
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