ムサまも5題

□ブラックコーヒー
1ページ/8ページ

「あれからもう10年か。」
「早いものね。」
ムサシの言葉に、まもりが同意した。

栗田が静かに頷き、ヒル魔は無言でコーヒーを飲んでいる。
10年分歳を重ねた4人の視線の先。
写真の中で微笑む少年だけは、歳を取らない。
10年前の姿のままで、彼の時間は歩みを止めている。

写真の中の笑顔の少年がこの世を去ったのは10年前の今日だ。
当時の彼らはまだ学生で、アメフトに熱中していた。
その頂点を極めようと、仲間内で切磋琢磨していたあの頃。
彼らの人生には一点の曇りもなく、未来は光に満ち溢れていると思っていた。

そんな矢先に起こった不運な事故。
彼らの誰もが弟のように可愛いと思っていた少年。
いずれは世界に駆け登ると思われていたRB。
写真の少年、小早川瀬那はあっけなくこの世を去った。
そして今は栗田の実家の寺に眠っている。

それから10年。
彼らは毎年この日には、ここに集まる。
彼の墓前に花を飾り、線香を上げて、瀬那を偲ぶのだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ