ムサまも5題

□無愛想
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瀬那の部屋は全然変わっていない。
多分瀬那の母親が毎日きちんと掃除をして、空気を入れ替えていたのだろう。
まもりは10年ぶりに訪れたその部屋の空気を、胸いっぱいに吸い込んだ。

「この子のためにいろいろ買わなくちゃいけないな。」
「ええ、部屋も模様替えした方がいいかもね。」
瀬那の両親が顔を見合わせて、そんなことを話している。
瀬那によく似た小さな少年は、初めて見る部屋をキョロキョロと見回している。

「まもりちゃん、ありがとう。」
瀬那の母親が、部屋の中をチョコチョコと動き回るセナを見ながら言った。
お礼を言われれば、少しは救われたような気分になる。
何といっても入院していた病院から、ヒル魔の目を掠めるようにして連れて来たのだ。
ヒル魔はきっと取り乱しているだろうし、宥め役のムサシにも申し訳ないと思う。

この子にとっても、瀬那のご両親にとっても、これが一番いい筈。
それでもまもりは懸命に、自分にそういい聞かせていた。
最近この少年しか眼中にない様子のヒル魔と、すっかりヒル魔に懐いてしまった少年。
割り込めない雰囲気を築く2人に、いつしか嫉妬してしまっていた。
だから少年とヒル魔を引き離すことは、まもりにとっても望むところではあったのだ。

しいてはこれがヒル魔くんのためなんだから。
まもりは懸命に、後ろめたい思いを飲み込もうとしていた。
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