ムサまも5題

□大丈夫
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まもりはふと立ち止まって、それを見た。
交番の前に貼られている指名手配犯の写真。
きっと他に写真がなかったのだろうが、10年以上も昔の学生時代の写真だ。
かつてまもりが愛した男の自信に満ちた不敵な笑顔が、そこにある。

この1年、いろいろなことがあった。
まもりは男の写真を真っ直ぐに見据えて、挑むような視線を返した。
ちょうど1年前の今日、瀬那にそっくりな少年、セナと出会ったのだ。
10年目の瀬那の命日に現れた謎めいた少年に、皆の心が揺れた。

突然にコンビニから走り去ったセナ。
ムサシはヒル魔のマンションに向かったのだと思った。
だがヒル魔の部屋には、セナも、そしてヒル魔本人もいなかった。
相変わらず鍵はかかっていなかったし、パソコンも携帯電話も財布も置きっぱなしだ。
まもりにもその事実が知らされ、懸命にその行方を捜したが、2人は発見できなかった。
周囲の人間を散々翻弄したヒル魔とセナは、姿を消してしまったのだ。
そして数日後、憔悴した瀬那の両親に、電話があった。

お父さん、お母さん、ありがとう。ごめんなさい。
僕はヒル魔さんといきます。
セナはそれだけ言って、一方的に通話を切ってしまったという。

「いきます」は「行きます」なのか、それとも「生きます」なのだろうか。
まもりは時折、そんなことを考える。
周囲に引き離されても、死が2人を分かっても、まためぐり逢う。
そんな2人には、どちらも正解なのかもしれない。
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