ヒルセナ5題2

□見つめる背中
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空港ロビーは行き交う人々で慌しい雰囲気だった。
目当ての少年は、一緒に渡米するチームメイトや見送る人々に囲まれていた。
ひっきりなしに誰かに捕まえられている様子で、とても話す雰囲気ではない。
まぁ姿を見られたのだからいいか。
その輪の外側から少し寂しく感じていたその時。
少年は大きく手を振りながら、小走りでこちらへやって来た。

「雪さん!来てくれたんですね」
少年−小早川セナは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「でも何かお邪魔みたいだけどね。」
「そんなことないです!凄く嬉しい。ありがとうございます」
だが時間はあまりなかった。
セナ、置いてくぞ!と誰かの声がする。もう彼らは行かなくてはならない。
「頑張ってきますから」
セナが雪光に右手を差し出した。雪光がそれに答えて手を握り返す。
つかの間の、でも心のこもった握手を交わした。
そしてセナは搭乗口へと消えていった。

雪光はじっとセナを見送っていた。
その小さな背中が見えなくなるまで。
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