夏鈴5題
□バカじゃないの
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テメーのその匂い、何だ?
ヒル魔が顔を顰めたのを見て、セナは表情を曇らせた。
2度目のクリスマスボウルを目指して、余念のない練習の日々。
今日はその合間を縫って、「月刊アメフト」の取材がある。
泥門デビルバッツの新旧キャプテンの対談という企画らしい。
初代主将ヒル魔と2代目主将セナは、編集部で待ち合わせていた。
練習を終えたセナは大急ぎで着替えていた。
練習に没頭していたセナは、すっかり時間を忘れており、もう時間ギリギリだった。
シャワーを浴びたいけど、その時間もない。
ねぇ、汗くさくないかな?
セナはタオルで身体を拭きながら、隣で着替えていたモン太に聞いた。
練習漬けの日々、久しぶりにヒル魔に会うのだ。
不愉快な思いなどさせたくない。
じゃあ、これ。
モン太が答えるより先に、反対側からシュっと音がした。
瀧夏彦が何か甘い香りがする液体を、セナに吹き付けたのだ。
何これ?とセナが顔を顰めながら聞く。
でも聞かなくても答えはわかっている。オーデコロンだ。
汗と混じり合って、かえって酷いことになっているのではないかと思う。
だが夏彦は純然たる親切でしたことなのだし、セナには抗議するほどの度胸もない。
なによりもう時間がない。
かくしてセナはコロンの匂いを振り撒きながら、待ち合わせ場所に到着した。