筧水5題

□high
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「何だと?」
筧は携帯電話を握り締めながら、裏返った声を出した。

ヒル魔とセナの恋愛について、筧は水町とはまるで違う感想を持っていた。
水町は当然セナの視点で、健気にヒル魔を想い待ち続ける様子を見ている。
セナの大学での活躍も相まって、ドラマチックな遠距離恋愛だと思っているようだ。
だが筧には、とてもそんな風には見えなかった。

アメリカにいる筧は、当然ヒル魔の視点でこの恋を見ることになる。
だが当のヒル魔は色恋沙汰を表に現すような性格ではなかった。
何となくセナの話題になっても表情1つ変えることがない。
水町がたまに知らせるセナの様子と、ヒル魔の態度のギャップに戸惑っていた。
ひょっとしてヒル魔にとって、セナとの恋愛は遊びなのか。
もしくは恋愛しているというのは、セナの一方的な勘違いか。
そんなことを思ってしまうほど、ヒル魔は醒めているように見えた。

だから驚いたのだ。
つい先程スタジアムで顔を合わせたヒル魔は、ひどく慌てた様子だった。
こんなにもハイテンションのヒル魔を見るのは、初めてのことだ。
どうしたんだと問うた筧に「セナに会うから、一度帰国する。」と告げた。
どうやらパソコンで、何か不意な知らせを受けたらしい。
そしてその後の予定をすべてキャンセルして、ヒル魔は空港に向かったのだ。

何が何だかわからずキョトンとする筧に、日本の水町から電話が来た。
セナがヒル魔に会うために、こちらに向かっているという。
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