筧水5題

□チアボーイ?
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空港で迷っていたセナは、背後に喧騒を感じて振り返った。
1人の男が、小脇に大きなバックを抱えてこちらに走ってくる。
その男を追いかけてきたのは、複数の男たちだった。
制服の警官らしき男が3名と、私服姿の男が4、5名。
留学経験があるくせに英語が苦手なセナだったが、これは聞き取れた。
泥棒だ、ひったくりだ、捕まえろ、と彼らは口々に叫んでいる。
これは留学するにあたって、事前にヒル魔が教えてくれたフレーズの1つだ。
テメーはそういうトラブル多そうだからな、という苦笑と共に。

ひったくり犯らしい男が角を曲がっていくのを見て、セナは一瞬考えた。
行く先はおろか、空港内を脱出すら出来ない今の状況。
正直なところ、人助けをしている場合ではない
だけどバックを盗まれた人はとても困るだろう。
ひったくり犯はどうやらかなりの俊足のようで、追いかける男たちとはどんどん離れていく。
だけど自分なら追いつけるかもしれない。
セナは小声で「よし」と気合を入れると、空港の通路を走り出した。

セナは通路に溢れる人々をスラロームしながら、ひったくりの男を追っていく。
男は後ろを振り返って、セナを見るとギョッと驚いた表情になった。
足にはきっと自信があるのだろう。
まさか追跡者が自分との距離を詰めてくるとは思わなかったようだ。
男が必死の形相で、また逃走を開始する。
セナは冷静にその動きを見ながら、追跡を続けた。
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