作品置き場2

□Hそのままの君でいて
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     《そのままの君で居て》








「はぁ〜」


 護廷高校1年2組の教室で、雛森 桃は大きくため息をついた。
 丁度、帰りの会が終わったときで、皆がガタガタと立ち始めていた。
 そのため息に、心配性の雛森の親友・朽木 ルキアは慌てて駆け寄ってくる。


「桃?!どうした?風邪か?何かされたか?」
「ち・・違うよ!ルキアちゃん!」
「そうだとしたら・・・・・日番谷か?」




 その言葉に、雛森はびくりと肩を震わした。





 日番谷 冬獅郎。

 雛森の幼馴染であり、つい先日、告白されて付き合い始めたばかりの、彼氏である。
 




 雛森の反応に、ルキアは手ごたえを感じ、雛森の顔にぐいっと顔を近づけた。



「日番谷が何かしたのか?何かいきなりやらしいことでもしたか?」
「ち・・違うよ!////ただ・・・・」
「ただ?」
「また日番谷くん・・・・呼び出されてたの・・・・」


 日番谷も同じ教室なため、呼び出されたとか、ラブレターを入れられたとかすぐに雛森には分かるのだ。
 そしてついさっき、彼は化粧ばっちりでめかし込んだ女の子に呼び出されたのである。

 ルキアは「またか・・」と頭を押さえた。



「日番谷には桃がもう居るのになぁ?」
「しょうがないよ・・・・」



 日番谷はモテる。
 顔も綺麗だし、スポーツ万能、頭も良いし、何より優しいし。
 雛森と付き合う前からもよくこういうことはあって、よく焼きもちをしていた。
 でも、こうして付き合えたわけだし、もうそういうことはないんじゃないのか・・雛森はそう思っていた。




・・・・・・・・・・・・・・甘かった。







「人が誰かを想うには、自由だもんね・・」



 分かってる。




 分かってるよ・・・・・・・・






 ルキアは苦しそうに顔をゆがめた。
 そして、無言で雛森の頭をポンポンと叩く。


「私も・・・綺麗になりたいなぁ・・・」



 そうポツリとつぶやいた言葉に、ルキアは「な・・」と声を上げた。



「桃!桃には必要ないぞ?絶対!十分可愛いし・・・・」
「可愛くないよ・・・私も・・ルキアちゃんぐらい可愛いかったらなぁ・・・」


 何てこの子は天然なのだろう・・・ルキアは完全に言葉を失い、はあとため息を吐いた。
 全く、日番谷には勿体ない。



「まぁ・・・人は・・化粧とかいろいろで変わるらしいからなぁ・・」


 その言葉に雛森は肩を震わせた。そして「これだ・・」と呟いた。

「ぬ?」
「ルキアちゃん!私、化粧とか色々して綺麗になる!!」
「桃・・っ?!」
「よ〜し!ルキアちゃん!明日までに私は変身してくるねっ!」
「桃には必要ないと思うが・・」



 そう言うと、鞄を抱え、教室を駆け出していった。













「・・・・というわけなんです」

 教室を出てから真っ直ぐに、雛森は国語の教師・松本の元を尋ねてた。
 松本はその雛森の話をしっかりと聞き、ルキアと同じく、「桃には必要ないと思うわよ?」と言った。

「何でですか」

 雛森はぷうっと頬を膨らませた。

「でもねぇ・・私の桃には絶対必要ないわよ?」
「だって・・・綺麗になりたいんですもん・・」


 日番谷くんに、似合う子になりたい




 雛森の必死さが伝わったのか、松本は、

「いいわよ」

 と言った。
「本当ですか?!」
「ええ。可愛い桃の頼みなら・・例え火の中、水の中!早速、家にいらっしゃい!」



 言われるがまま松本のマンションに行くと、その部屋の散らかりように雛森は思わず目を丸くした。
 呆気に取られている雛森の前に、大量の化粧品を持って松本が現れ、にんまりと笑う。


「さて、始めようかしら」














 場所は変わって日番谷家。

 日番谷は携帯を目の前でぶら下げ、いつ愛する彼女からメールが来てもいいように構えていた。

「オレ・・何かしたか?」


 女に呼び出されている内に雛森は一人でさっさと帰ってしまっていた。
 日番谷には、何も言わず。
 
 日番谷が女に告白されに行っていたのがダメだったのだろうか・・・・




「何で分かんねぇのかな・・」





   オレは、お前のことが好きで好きで溜まらないほど好きなのに。






        他の奴の告白なんて、全く頭に入っていないのに







             頭にあるのは、お前だけなのに・・・・






 その時だった。
 ピンポーンと呼び鈴が家に響き渡った。
 日番谷はちっと舌打ちし、階段を駆け下りる。
 ドアを開け、「どちら様ですか」と言おうとした。
 しかしそれは、言えなかった。





「えへっ。こんにちは、日番谷くん」







 そこに立っていたのは、雛森だった。
 制服姿なのは変わらないが、胸元は少し開いており、さらに化粧もしているのだろう。唇はつややき、目もさらに綺麗に見える。髪も下ろし、雛森は立っていた。

「・・・お前・・・・・・何て格好してんだよ・・・」



 ようやく振り絞った声に、なぜか雛森は顔をくしゃりと歪めた。
 泣きそうな顔になり、「変?」と聞いた。


「いや・・変というか・・・」
「変なの?!」
「いや・・・でも何で・・」
「綺麗になりたかったの」
「は?」



「日番谷くんのために、綺麗になりたかったの」





 顔を真っ赤にさせ、涙目になりながら言う雛森。
 どうやら雛森は、綺麗になりたかったらしい。
 今のままでも、十分・・いや・・・十分すぎるほど綺麗で可愛いのに。



         




   馬鹿・・・・・





             もっと夢中にさせんなよ・・・











 日番谷はため息をつき、雛森を強く抱きしめた。


「お前、この格好のままここまで来たのか?」
「うん」


 再びため息。
 よくナンパや、変な男に襲われなかったものだ。

「・・変?」
「・・・・・変じゃない。すっげぇ・・可愛い」
「えへへ・・」
「でもオレ、いつものお前も好きだぜ?」
「ふえ?」
「十分可愛い。オレには勿体ねぇくらい・・」






   いつも思う






           オレには勿体ないくらいの彼女だと。





 そしてその気持ちは、雛森と同じ・・・・・・








「そのままの桃で居て・・・」




 その呟きが、雛森の耳にも入ったのだろう。
 雛森は「そうなの?」と問い返した。
 ああ、と日番谷は頷く。





「どんなもの着ようとも、どんな格好しようとも、お前が世界1可愛い」





「・・本当?」
「本当。お前がもっと綺麗になったり、こんな格好してたら、おちおち1人にさせられなくて、オレは不安で死にそうだからな・・・まぁ・・・いつもだけど」


 そう言うと、雛森は笑った。
 本当に綺麗に。
 きっと、この世界中どこを探しても、彼女より可愛いくて綺麗な奴は居ないだろう。










       だから






                  そのままの君で居て?






  そして、










        ずっと側に居ろよ・・?















       《終わり》

 

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