作品置き場2

□Kあの時に見た君の姿を
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日番谷は情けなくなった自分の顔に活を入れ、姿勢を正す。
彼女の前ではいつだって、強がりでいたいのだ。

雛森は華やかに笑っている。
机の前まで近づくと、日番谷の背後に回った。

「…何してんだ」

「肩揉んであげてるのよぅ!凝ってるねぇ、すごく堅い…」

背中からじんわりと彼女の体温が伝わる。
とても温かい。
なんだか全身が暑苦しくなったので、日番谷は雛森を押し退けた。

「あっ、ひどい」

「ベタベタすんな、ボーケ」

雛森は一瞬むくれたが、すぐにまた微笑んだ。
こんな、なんでもない笑顔が日番谷の不安を掻き立てる。
笑顔と、あの日の彼女が重なるのだ。藍染の狂刃に倒れる姿。


( 嘘 )


今はもう、彼女の心も身体も癒えてきているのを知っている。

それでも、彼女が幸せの絶頂にいる時、それが呆気なく崩されるのではないかとどうしようもない恐怖に襲われる。

雛森の笑顔を見る度、日番谷の表情はいつもひきつった。





「ねぇ、日番谷くん。
あたし大丈夫だよ」


まるで心中を読み取ったような言葉に、日番谷は目を見開いて雛森を見つめた。

雛森は切なそうに、日番谷を見つめ返している。

日番谷は自分の首筋に少し、冷や汗を感じた。

「…何がだよ」

「心配しないでね、」

雛森はよく「大丈夫だ」と言う。
薄々日番谷の心に気づいているのだろう。日番谷の自分への不安を和らげたいと願う。

それでも彼のプライドを傷つけまいと、遠回しな言葉を使う。

日番谷はその彼女の気遣いが嫌だった。

立場はいつのまにた入れ替わってしまったようだ。

あの頃に囚われ脱け出せないのは、雛森ではなく日番谷だ。

雛森を愛するが故の恐怖。
愛しているから、伝えられない恋なのだ。

もう二度と、彼女の心の平穏が奪われることがあってはいけない。

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