作品置き場2

□O君しか見えない
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春夏秋冬。



春は桃色の花弁を咲き誇る、桜。


夏は吸い込まれるような、青空。


秋は色鮮やかに変貌した、紅葉。


冬は白銀の世界へ誘(イザナ)う、雪景色。



死語の世界にも、季節の醍醐味があるものだ。

日番谷は一人、自室で縁側に座っていた。





「…去年も、色々あったな…」





新年となって、はや十数日。

瞼を下ろせば、簡単に去年の出来事が、蘇ってくる。















"春"



毎年恒例の、全隊が集まり酒を交わす花見。

総隊長直々に、桜の木を集中的に植えた地の、中心で全死神は桜を見入る。

それは無論、日番谷も同じである。





『綺麗…なんだが、呑んだくれがな』





渋い顔で、既に酒臭くなった隊長、副隊長を見遣った。

勿論、その中には自分の部下もいて、日番谷は小さくため息をついた。





『楽しくないの?日番谷君』

『…雛森』





上から声がふり、見上げれば雛森が酒瓶を持っていた。

酒を日番谷の空になったおちょこに注ぐと、隣に座る。





『別に。楽しんでるぜ。後日の仕事が心配なだけだ』

『そか。よかった』

『お前は、呑まないのか』





日番谷が問えば、雛森は苦笑いをして頷いた。

苦い思い出があるから、言うと他の隊長などに、次に行くために、雛森は行ってしまった。

その後、日番谷は呑んだくれに、絡まれないよう、ずっと雛森を、目で追っていた。















"夏"





現世と変わらず、尸魂界も猛暑に襲われていた。

だが、暑さと引き換えに、空は雲一つない、まさに"青空"だった。

そんな中、隊舎に閉じこもりは嫌だ、と雛森は休憩時間に、少し離れた丘へと来ていた。





『綺麗』





ぽつりと呟けば、心地よい風が吹き抜けた。

気持ち良さそうに目を細めれば、草を踏み締める音がした。





『日番谷、君?』

『おぅ』





音の主は、日番谷で、雛森は目を丸くした。

この丘は自分が見つけた場所で、今度日番谷に教えようと思ってた場所。

つまり、誰も知らない場所だったからだ。





『え、なんでここ…?』

『お前見かけたから。つーか、見てなくても霊圧でわかるだろ』





呆れ気味に日番谷は、隣に腰掛けた。

"見かけたから"なんで、嘘。

"目で追っていたから"なんて言えないから。

そんな日番谷の気持ちを知るはずもなく、雛森は納得したように頷いた。





『空』

『あ?』

『綺麗、だねぇ』

『…あぁ』





ちらりと、青の空に浮かぶ雲を見ると、雛森を見る。

風に吹かれ、黒髪がやや踊ったその横顔は、とても綺麗だった。















"秋"





みずみずしい緑色をした葉は、見事に赤や黄色に変貌した。

毎年の如く、日番谷は紅葉拾いに誘われる。

今年も例外ではなく、雛森は笑顔で、日番谷を誘いった。





『ほらほら、これっ!すっごい真っ赤』

『そだな』

『も〜!シロちゃんも、ちゃんと拾ってね』





頬を膨らませて言うが、全く効果は見せない。笑顔で怒られても、怖くもなんともない。

日番谷は呆れながら、大きな木に背を預け、貰った紅葉をひらひらさせた。

紅葉の後ろ背景は、楽しそうに、幸せそうにはしゃぐ雛森。

無意識に頬を緩め、日番谷はこっちの方がでかいだろ、言って雛森との距離を縮めた。















"冬"





草木には、白い霜が下り、地面は真っ白な雪で覆われる。

普通なら、白銀の世界に見入るものだが、日番谷だけは違った。

日番谷は白銀の世界には、目もくれず、危なっかしい華を見ていた。





『雛森、転ぶなよ』

『大丈夫だよっ!だから、日番谷君も遊ぼう?』

『さみぃのは、嫌いだ』





素っ気なく返すが、内心は雛森がいつ転ぶか心配でしょうがない。

雪がクッションとなり、怪我はしないが、間違いなく寒さに身を縮め、最悪風邪をひく。

そんなことを考えると、暢気に白銀に見入ることなんて出来ないのだ。





『!わぁっ』

『ほらみろっ!馬鹿っ!』


















「…あの後、寒い冷たいで、大変だったな」





小さく苦笑する。

それは、雛森のドジさに対してではなく、"自分"に対しての苦笑。










死んでも季節の醍醐味がある、と思っていた。


生前と変わらず、桜等に見入ると思っていた。


……けれど、









「結局は俺、いつもあいつを見てたのか」





どれだけ溺れてんだよ、と自分を笑うが、満更でもない。

溺れているのは、確かにそうだから。

日番谷がそんなことを考えていると、甘いニオイがし、視界を笑顔が覆った。





「な〜に見てるの?シロちゃん」





子供みたいに聞いてくる声に、日番谷は優しく笑い、細い手首を掴み囁いた。
















「お前しか見てねぇよ」





君しか見えない





"春夏秋冬。君がいつも輝いてるから"










END...

 

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