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□ Chapter2 運命のうず
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── 3年後 ──
「成瀬、バレーボールの経験は?」
「え…? …ないです。」
いつからかこんなウソもさらっとつけるようになった。
私は成瀬絵理香。
大学生。
ハイジャン選手。
── 今は。
「明日からの全日本男子の合宿、植田監督にトレーナー頼まれてるからお前も一緒に来い。」
「いや、だから…私、バレーは……」
この人は福山トレーナー。私が2年前ケガをして以来のつきあい。
その腕は折り紙付きだけど、トレーニングやリハビリが厳しいことでも超有名。
『鬼の福山』なんて呼ばれることも。
いわゆる“ドS”。
「だったら、トレーニングだけでいい、参加しろ。」
「え〜!!」
全日本のしかも男子、どんなトレーニングをしているか、想像しただけで気分が滅入った。
「『え〜。』じゃない!自分のためだろ〜が。」
「…はぁ〜い…。」
そう言われて、私は渋々返事をした。
本当は、何よりバレーにかかわることが嫌だった。
福山は時々自分が担当するチームの合宿に私を連れて行く。
“理論あってのリハビリ”が福山の持論で。
私にその理論をさらに実践でたたきこむためとか言ってるけど、アシスタントがわりにこきつかわれてるだけな気がしないでもない。
それに、この世界では有名…らしい福山が担当するのはプロや全日本レベルばかり。
当然トレーニングも超ハードで、私にはいい迷惑だ。
しかも、今回はバレーボール…。
ずっと避け続けてきたバレーボール。
「ねえ、福山。どうしても行かないとダメ?」
「なんだ?バレーに何かあるのか?」
う…。鋭い切り返しに私はあせった。
「いや、別に…。」
福山はこういうコトにスゴく鋭い。
選手の心理状態を見抜くのもトレーナーのスキルのうちらしいけど。
でも、弱点さらしたら、メンタルでもフィジカルでも徹底的に鍛え直される。
なんせ、ドSだし…。
私はしかたなくこれ以上の抵抗をあきらめた。
バレーボール…、3年ぶりか…。
今から思えば、私の運命はこの時すでに大きなうずに巻き込まれようとしていた。
「明日、遅れんなよ。」
「は〜い。」
もちろん、この時は知るはずもなかったけれど。