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□ Chapter4 想いの行方
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結局、熱けいれんで安静を言い渡された私は、医務室で睡眠不足を取り戻して。
午後の練習に遅れて参加することになった。
とは言っても、ボール練習で私にできることはボール拾いぐらい。
…ということになっているので。
トレーニングよりずっと楽できそうだったけれど。
毎日、ボール拾いで済むほどたぶん福山は甘くない。
…となると、明日からは一人でトレーニング?
── え〜。ヤダ…。
そんなことならここは設備完璧だし、一度跳んでみたいんだけどなぁ。
明日からのことをウダウダ考えながら、体育館へ向かう。
それでもまた ──
近付くにつれて大きくなるボールの音に、私の足取りは重くなる。
今ごろ気づいたけど。
ボール練習のフロアに入るなんて。
精神的にはトレーニングよりずっとキツい。
── 大丈夫。見てるだけでいいんだから。
自分に言い聞かせて。
…だけどやっぱり。
扉の前で、足が止まる。
深呼吸して、扉に手をかけてはまたためらう。
こんなことを何度も繰り返して。
「はぁ…。」
それでも前に進めず、ため息をついた。
「なにしてんだ?」
「うゎっ…。…宇佐美さん…。」
びっくりして、思わずあとずさる。
この人は、どうしてこうもタイミングよく、いや悪く…現れるんだろう…。
「なっ…なにしてるんですか?」
「ドリンクこぼしたから、手を洗いに。…って、俺が聞いてんだよ。」
「あっ…。なんか、すごい迫力で入りづらくて…。」
とっさの嘘が、鋭い宇佐美さんにもっともらしく聞こえたか少し心配だった。
「は?なんだそれ。」
宇佐美さんは、あきれたように笑って。
「で、大丈夫なのか?」
と、珍しく普通に少し心配そうな顔をした。
「あっ、はい…。」
── が。
その言葉に宇佐美さんが吹き出す。
え…?
「そりゃそうだろうなぁ。あれだけ寝てりゃ。」
は?
あっ…。
「ひど〜。医務室黙ってのぞいたんですか?」
「“黙って”じゃねえよ。爆睡してたくせによく言うよ。」
「…。」
宇佐美さんが勝ち誇ったようにニヤッと笑う。
ホントに全然気づかなかった…。
「でもそれって、心配してくれたんですか?」
宇佐美さんのマネして、ニヤッと笑ってみる。
「はぁ?…するかよ。」
「ふぅ〜ん。」
少し照れた顔がおかしくて、ニヤニヤする私を軽くニラんで。
「ほら、行くぞ。」
「えっ!」
私に考える隙も与えず。
宇佐美さんは、片手で扉を押し開き、片手で私の腕を引く。
長くためらっていたことが嘘みたいにあっさりと、私は体育館の中に導かれた。
ボールの弾む音 ──
シューズの擦れる音 ──
フロアの熱気と匂い ──
3年ぶりに触れる感覚。
熱くなる胸と、高鳴る鼓動に、私は気づかないふりをした。