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□ Chapter5 情熱の代償
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トレセンに戻ってきた俺たちは、ロビーで足を止めた。



メンバーがほぼ全員集まって、それぞれ雑誌片手に、なにやらにぎやかだ。






── ?



隆弘が手にした雑誌が、女性向けのファッション誌に見えて。



俺は、不信げに少し目を細めた。







「おっ、おかえり。おふたりさん。」



隆弘が、俺たちに気づき、ノーテンキな声で言う。



が、その瞳は。



『あとでゆっくり説明しろよ。』



と言うように、意地悪く光っている。






…と。



隣の成瀬が、ハッとした顔をして。



机にも何冊か置かれた雑誌を、次々と手に取り、ページをめくる。



そして、放心したように、最後の一冊を机にドサッと落とし。



「うそ…。」



「どうした?」



俺の問いかけは、聞こえていないかのように、完全ムシで。



成瀬は、メンバーたちを鋭い眼差しで見渡す。



気づけば、みんなニヤニヤしながら、成瀬を見つめていて……







「こっ…これっ!どうしたんですかっ!?」



アセった様子で、うろたえる成瀬を、イタズラっぽい笑顔で見ながら、隆弘が口を開く。



「今日、取材の時、出版社の人に頼だらさ〜、くれたんだよ。絵理香ちゃんの載ってる雑誌、こんなに。」



「はぁ〜!?」



「宇佐美さん、これなんて、お宝ですよ!絵理香ちゃんのモデルデビューの雑誌!まだ、高校生。かわい〜!!」



「×××××!!!」



朝長の言葉に、成瀬は、“ムンクの叫び”もびっくりのリアクションで、声にならない声を上げ。



猛然と二人の手から雑誌を奪おうとしたが。



隆弘に雑誌を高く掲げられ。



「返してくださいよ〜。」



まわりをぴょんぴょん跳びはねている。



あいつ、あんなキャラだったっけか?



…ってか、隆弘相手じゃ、ムリだって。



俺はあきれた笑いを浮かべた。







「優!」



助けを求められた越川も。



「まあまあ。どれも、かわいく撮れてるって。」



雑誌を見ながら、笑顔でスルー。



「そぉいう問題じゃなくてっ!」








隆弘は、ムキになって絡む成瀬をおもしろそうに見下ろしながら。



「大輔、お前も見るだろ〜?」



手にした雑誌をぶんぶんと振る。



それを聞いた成瀬が一段と大きな叫び声を上げた。





「いらねぇよ。」



苦笑いでソファーに座る。



その時、隣の越川と視線がぶつかった。



「……。」







「いったい…どういう風のふきまわしですか?」



雑誌に視線を戻した越川が、そこから視線を離すことなく。



他のヤツには聞こえないほどの低い声でぼそりと言う。





── 当然、成瀬につきあったことだよな…。



そして、小さくため息をつく俺に、挑戦的な視線を向けた。






にぎやかな空間で ──。



ふたりの間の空気だけが凍りつき、重力を増す。






「ただの気まぐれに決まってるだろ。」



吐き捨てるように言って。



この話は終わりだ、…と、言わんばかりに。



積まれた雑誌の山から、離れて置かれていた一冊を手にとった。









「うわ〜、やっぱりホンモノだ。」



清水が、雑誌と実物を見比べながら、しみじみとつぶやき。



「ホントにモデルさんだったんですね〜。」



「いまさらっ!?ってか、疑ってたのかよ…。」






「そうか、今日は私服だから、いつもよりモデルっぽく見えるんだ〜。」



「いやいや、富松さん!“っぽく”とか“見える”とか、おかしいでしょ〜?」



ほめてんだか、けなしてんだか ──。な、天然2人の発言に。



福澤が、ソツなく鋭いツッコミを入れる。








「でも、ホント、私服だとさすが“モデル”ってカンジだよな。」



津曲さんの言葉には。



「普段のジャージにすっぴんもいいけど〜。」



「昨日のメガネも捨てがたいけど〜。」



隆弘と朝長がすかさず食いつき。



「「今日は、一段とかわいい〜!!」」



と、口をそろえる。






「そんな絵理香ちゃん、今までずっと独り占めしてたの誰だぁ〜。」



「……。」



津曲さんまで?



勘弁してくださいよ…。



俺は苦笑いでアタマをかく。



ほめられてるにもかかわらず、成瀬は、居心地悪そうに笑っていた。







── !?



感じた視線の先には。



ニヤリとする福澤。



── イヤな予感が…。







「そりゃ〜、宇佐美さんとふたりでドライブデートですもん、絵理香さんも気合い入りますよね〜?」



「「はぁっ!?」」



俺たちは、思わず声をそろえる。








『えっ、そうなの!?』



そう言わんばかりの視線が、成瀬と俺に注がれ。



俺は苦虫をかみつぶしたような顔で。



チッと舌打ち。



ったく、アイツは〜。






「ちょっと〜!福澤くん!!」



「ムキになるなんて、余計あやしいですよ。」



「はぁぁぁ?」



冷静に切り返され、成瀬はますますアツくなる。





だが、一瞬その瞳が、クールな鋭い光を放った。






成瀬は、一冊の雑誌をめくり、ページを開くと。



「清水くん〜!福澤くんのカノジョって、この茉希ちゃんにそっくりってホント?」



「なっ…。」



今度は、福澤がアオくなり。



「そうなんですよ〜。アイツの大学のチームメイトがうらやましがってました。」



「清水!普通に答えんなっ!!」



アカくなり。



「ふ〜ん、ムキになるなんてあやし〜。」



「……。」



言葉を失った。







「えっ?オマエのカノジョ、こんなカワイイの?」



「いや、だから…凛は…、タダの友達で…。」



「凛ちゃんって言うんだ〜。」



「“タダの友達”だって〜?ズルいオトコだねぇ、福澤は。」



「いや、あのっ…。」






珍しくみんなにツッコまれまくり、うろたえる福澤に。



成瀬は満足気にニヤリとして俺に視線を向ける。



やるじゃねえか。



しばらく福澤にやられっぱなしだった俺も、思わずニヤリと笑みを返した。







「絵理香さん!!俺のNumber忘れてないでしょうね!?」



みんなの質問攻めから逃れるように。



成瀬の背後から、福澤が叫び声をあげた。
 
 
 
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