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Precious morning
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カーテンの隙間から差し込む朝のまぶしい光を目をつむったままで感じて。



夢の中から少しづつ引き戻される。



窮屈なベッドの感覚に、優の存在を思い出し。



私はまだ意識の半分を夢の世界に残したまま、少し口角を上げた。






何時…かな…?



そう思いながらも、重いまぶたに目をあけることなく、寝ぼけたアタマで今日の予定をさぐる。



── 今日はふたりともオフ。



幸せな答えを探しあて。



私は完全に睡魔に身をまかせようと、寝返りをうって優の方を向く。




それに反応するように、優もこちら向きに寝返りをうった。



なんとなく感じる息づかい。



私は手探りでその胸に触れて。



手のひらで、優の鼓動を聞く。



規則正しい揺れの感覚に誘われ、私は再びまどろんだ。







「ぅ…ぅ〜ん…。れふ…とぉ…」



はぁ…?



優が寝言でトスを呼んだ。



たまらなく可笑しくて、目を閉じたまま、あきれたようにクスッと笑って。



その寝顔を確かめようと、私はやっとうっすらと目をあける。



夢の中でもバレーなの?



ちょっとバレーに嫉妬して。



穏やかな寝顔の鼻のアタマを、人差し指でチョンとつつく。



それにも気づかない、幸せそうな寝顔が愛しくて。



チュッ…



今度は同じ場所にキスをした。






「ぅ…ん…」



「優…?」



小さくうなるような声を出した優に、そっと名前を呼ぶ。



── と。



突然、優の腕に引き寄せられ、腕の中に抱き締められた。



起き…た…の?



きつく抱き締められているせいで、優の顔を見上げてもアゴしか見えない。



だけど、わずかにおだやかな寝息が聞こえて。



まだ寝てるんだ…。



またクスリと笑って目を閉じる。



カラダに感じる優の体温と鼓動に。



私はいつの間にか意識を手放した。













それからどのくらい眠ってたのか。



髪をなでる、やわらかな手のひらの暖かさで、私は再び夢の中から呼び戻された。



寝ぼけた眼差しで、腕の中から見上げると、優のさわやかな笑顔が迎える。



「起きた?」



「うぅ〜ん。」



大きく伸びをして、もう一度、優の胸に顔をうずめる。



「…ねむ〜い。」



上の方から、あきれた笑い声がして。



『起・き・て』



と、言うようにリズムよく軽くアタマをたたかれた。



『ヤダ〜』



私は胸の中で、ぶんぶんと首を振って、うらめしげに優を見上げた。



!!



おでこにキスをして、優がいたずらっぽく言う。



「起きた?」



「まだ〜…」



そう言った私の唇が、唇でふさがれる。



ふたりの甘い時間を…







グゥ〜



優のお腹の音に邪魔された。



キスをしながら、ふたりで吹き出して。



「何…時…?」



「えっと…、1時すぎ。」



優が、ベッドのサイドテーブルから目覚まし時計をつかみとり、顔の上に掲げて言う。



「けっこう寝たね。」



「誰が?」



優がまた意地悪に言って、ニヤッと笑った。








「ご飯どうする〜?」



優の言葉にしばらくの沈黙。



なんとなくその沈黙に負けて。



「何か作ろっか…?」



おずおずと切り出すと。



「珍し〜。こりゃ、今日は雨だな…。」



笑った優の胸が上下した。








アスリートの彼女や奥さんは『家庭的』と、相場が決まっている。



…と、少なくとも私はそう思っていて。



だから…。



優の彼女に私がふさわしいのかは、いまだに自信がない。



だって私は ──。



これまで、もうすぐキャリアウーマンの称号を頂きそうなくらい、仕事しかしてこなかったせいで。



料理のレパートリーも少ない上に。



朝もカナリ弱くて。



優が起きるのを、朝食を作って迎えるなんて場面は、未だ演出したことがない。








「せっかくの休みなんだし、ムリしなくていいよ。ドコにランチ行く?ってつもりで聞いたのに。」



だけど、優はいつもこんなカンジで、それを気にするふうでもなくて。



「う〜ん。ICHIRINのランチ。」



「あっ、オレも思ってた。」



「じゃあ、決まり〜。」



「あっ、でもランチって2時までじゃなかった?」



「じゃあ、3時からのアフタヌーンティーセットにしよ!」



「まさか、最初からそれねらってた?」



「バレたか。」



バツ悪そうに笑う私の髪を、クシャっとかきまぜて。



!!



「じゃあ、もうちょっと〜。」



優がまた私を抱き締める。









「ごめん…ね。」



「何が?」



「ホントは、早起きして…料理とか…」



優は、髪をなでる手を止めて。



クスッと笑うと。



また苦しいくらい私を抱き締めて。



「オレは、そんなこと望んでないよ〜。ふだん、我慢させてる分、ムリしてほしくないし。」



私のアタマに優のアゴが触れて。



「それに…」



目の前で喉仏が上下する。



「早起きされちゃ台無しなんだよ。オレは…。こうしてウダウダしてる時間が一番幸せなんだから。」








「うん。私も…。」



恥ずかしくて、優の胸に顔をつけたままつぶやいた。





なかなか会えなかったりするけれど。



こんな幸せな時間を ──









「そういえば、前に作ってくれたグラタンおいしかったよ。また作って。」



「了解…。」











いつまでも重ねていけますように…。




















「こらっ!また寝るなっ!」






−Fin−





2009.5.11


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