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勝利の女神
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『どう?そろそろ、ラージャンやっつけた?』



はぁぁ〜?



メールの内容を思わず二度見。



そして、もう一度、From欄に“富松崇彰”の文字を確かめ。



な・に・こ・れ〜!?



ぼう然と固まる私。








グラチャンのイラン戦。



サービスエースに、ブロックに、もちろんクイックに。



── チャンスボール、アウトにしちゃったのは、ご愛嬌。



大活躍した崇彰は。



今日はインタビューまで受けたと聞いたんだけれど…。



っていうか、私だってテレビ前で、崇彰の活躍、ガン見だったんだから間違いない。







な〜の〜に!



試合直後、コレがその『富松選手』から、来たメール。



このマイペースな文面はいったい…?



なんで、よりにもよって、こんな日までゲームネタっ〜!!









バレーボールなんて、それまでほとんど縁がなかった私は。



出会った彼が、バレーボール選手だと聞いても、まるでピンとこなかった。



だけど、バレーのことなんてそっちのけで、ゲームの話で盛り上がり。



ゲームをしたり、電気屋さんをめぐったり…のデートを重ねて。



崇彰は、いつの間にやら、私のカレになっていた。








『まだ〜。ラージャン強すぎ。…っていうか、今日はそれどころじゃなかったから。』



試合のこと、話してほしくて、それを匂わせてみたけど。



『とにかく、罠しかけまくって、一匹目に全力投球。あっ、罠しかける時は、閃光玉でピヨらせとくこと!』



ガッツリ、ゲーム100%のお返事が…。



私は大きなため息とともに、ケイタイをベッドに投げ出した。








崇彰は、普段はバレーの話をほとんどしない。



だから…。



私は、練習を観に行ったこともないし。



いまだバレーのルールも、全日本メンバーですら、ビミョーだ。



── 私は私で、崇彰がそれを望んでいないと勝手に思って、それに甘えてきたんだけれど。



それでも、なんだか今日は、バレーの話をしてほしかった。








それは ──。



初めて観た彼の試合、グラチャン。



ゴールデンタイムのテレビ画面越し。



跳び、叫び、コートを躍動し…。



まぶしいくらいのフラッシュの光と、会場中の声援を何度も集める彼が。



普段の崇彰とは、別人で。



果てしなく遠い存在に見えたからかもしれない。










バレーをしている時も、私のこと、少しは思い出してくれたり…するのかな。



なんて。



ワガママすぎる…よね。



ホントはいつか。



バレーしてる崇彰を支えられるような存在になりたい。



なんて、思ってたりするけど。




まだまだそんなふうにはなれそうにない。











始まったスポーツニュースにチャンネルを合わせ。



バレーのニュースを心待ちにしながら。



気をとりなおし、ベッドのケイタイを再び手にする。









『武器、弱すぎるのかも。でも、欲しいアイテム出てこない〜。』



これで、精一杯甘えてるのだと言ったら、みんなに笑われるだろうけど。




ストレートに、『さみしい』なんて言う度胸も、素直さも持ち合わせてなくて。








『じゃあ、グラチャン終わったら、集会所で一緒に狩りに行こう。』



そして、こんな言葉がうれしくて、ひそかにニヤリとしている私は、おかしいのだろうか。








『それって、もれなく松本さんがついてくる?』



『松本さんナメちゃダメだって。あのヒト、あの細腕で、大剣振りまわすんだから!』



『マジでっ!?すご〜い。…でも、細腕は、関係なくない?』



『そっちも廉ちゃん誘いなよ。確か、双剣使いだったよね?』



『4人そろってノーガード?本人たちのキャラと正反対の、超攻撃的布陣だね〜(笑)』







あんな緊迫した試合の後に、こんなメールしてるのバレたら、どうすんの?



宇佐美キャプテン、超怖そ〜だったけど〜。






でも、ホントに ──。



崇彰は、こんな時でも変わらないな…。



くだらないメールのやりとりを見ながら、思わずクスッと笑う。



でも、“いつもと変わらない崇彰”に、なんだかひどく安心している自分がいた。






あっ…。



もしかして、崇彰はいつも通りのメールで、『それでもオレは、オレだよ』って言ってくれてたり…





テレビに大映しになった、崇彰の大きなガッツポーズに。



私は苦笑いを作る。





── するわけないか。






そんな計算ができるなら、最初から、私をこんなにヤキモキさせたりしないハズ。



彼の天然っぷりに。



勝手に巻き込まれ、振りまわされ。



そして、勝手に癒されてる私。



だけどそれすら、心地よく思えてしまうのは。



きっと彼は、何があっても“そのまま”だからだ。



彼が、みんなに愛される理由…も、そんなところにあるのかな。








『じゃあ、ミーティング始まるから。』



『うん。明日も頑張ってね。』



短いメールを送り終えた時、スポーツキャスターが、明日の試合への期待を口にして。



画面は、ゴルフの話題へと切り替わった。








「お風呂…入ろっかな。」



小さくつぶやいて、伸びをすると。



私は、テレビを消して、部屋をあとにした。













部屋にポツリ残されたケイタイ。



“崇彰のメール”を知らせる、ピンクのライトが、闇にまたたく。









From:富松崇彰

Subject:Dear 勝利の女神

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ボクが祈りをささげたのは、古田でも、神でもなく、キミです。

     ----END----












−Fin−





グラチャンでのトミーの活躍に
2009.11.24


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