空高く

□ Chapter2 干物オンナと拾ったオトコ
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「ふわぁ〜。」



大きなあくびをひとつ。



ぼんやりと広がり始める視界。






カーテンの隙間からは。



もうすっかり高くなった…



…と言うよりは、すでに沈みかけた太陽の。



眩しい光がチラチラと、こぼれている。



それを少しうらめしげに見つめ。



私は、ダラッとカラダを起こした。






「つっ…。いった…」



二日酔いの、鈍い痛みにも、もうなんだか慣れつつある。



あれ以来、友達や会社の同僚を誘っては、やけ酒の毎日。



昨日の記憶は……



全くない。







でもまぁ、自分のベッドにひとりで寝ているってことは。



残念ながら“事故”すらも、なかったようだ。



今なら、ウェルカムなのに。



…なんて、苦笑い。







それにしても ──



ベッドから、乱雑な部屋を見渡し、ため息をつく。



片付けるのは、大変なのに、汚くなるのは、あっという間なんだよね…。



じわりと感傷的な気分がにじむ。



それを振り払おうと、振ったアタマがまた痛んで。



苦笑いがこぼれた。











のろのろと、ベッドを抜け出し。



床に広がった雑誌や衣服を避けながら、キッチンへ。



ミネラルウォーターを取ろうと、冷蔵庫の扉に手をかけた。



部屋とは対照的に。



このところ全く使っていないキッチンは、ピカピカのままだ。








「うっそ…。」



のぞき込んだほぼ空の庫内に、ペットボトルが見当たらず。



ガックリと肩を落とす。






買いに行くしかないかぁ…。



あきらめきれず、もう一度、冷蔵庫の中をぐるりと見渡して。



「はぁ…。めんどくさ。」



ため息まじりに、つぶやいた。









かろうじて、着替えはしたものの。



ジーンズにTシャツ。



顔は、もちろんすっぴん。



徒歩3分のコンビニに、いちいち化粧などしていられない。






通いつめているコンビニの店員さんは、すっかり顔馴染みだけれど。



すっぴんの時には、一切声をかけられない。



仕事帰りの私とは、別人と思われているらしい。





── いや、気づいてるけど、気を遣われてるのかも。










29歳。独身、彼氏ナシ。








“干物女” ──



この表現が、どこまで一般的なのかは定かでないけれど。



私は、いわゆるソレだ。









料理、掃除、洗濯…



家事一切、めんどくさい。



休みの日は、昼過ぎまで爆睡。



あとは、テレビをみながらウダウダしているうちに過ぎてゆく。



外出するのは、せいぜいコンビニか、スーパーだ。







それでも。



カレには ──。



いつ訪ねてきてもいいように、常に部屋を掃除してキレイにしてたし。



料理も作った。







なのに、なんで ──?



シクシクと疼く胸を、Tシャツの上から、ギュッと掴み。



あふれそうな感情を飲み込む。










二人のカンケイは。



堂々と、みんなに紹介できるようなものではなくて。






『好きになった時には、結婚してるとは、知らなかった』とか。



『夫婦の関係は、とっくに終わってた』とか。



ありきたりな言い訳なら、たくさんあるけれど。



── いわゆる、不倫だ。








まさか、『いつかカレと結婚して、幸せになれる…』なんて。



コドモみたいに夢みてたわけじゃない。







それでも。



「子どもができたんだ…」



突然、カレから別れを告げられるなんて、想像もしていなかった。




少なくとも、別れを切り出す権利は、私が握っていると思っていたから。







子ども、って…。



冷めた気持ちで、自嘲する。



結局、奥さんとは、それなりにうまくいってたんじゃない。



そう思うと、また、どうしようもなくミジメな気分がこみ上げて。



きゅっと奥歯をかみしめた。







一方で。



なんだかホッとした自分もいたりする。



やっぱりムリしてたのかな ──…








“ありのままの自分”を、愛してくれる人にめぐり会えたなら。



それは幸せなことだと思うけれど。



さすがにこれじゃあね…



乱雑な部屋と自分の格好を確認し、大きなため息をついた。
 
 
 
 
 
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