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□ Chapter4 想いの行方
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足下に転がってきたボールを拾い上げる。
それを追ってきた優が、私に気づいて。
しばらく、ぼんやりとボールを手にした私の姿を見つめて、やっとしぼりだすように言った。
「絵理香…。大丈夫か?」
体調のことだけじゃなくて、いろんな意味での『大丈夫か?』なんだと、なんとなくわかった。
「うん…。」
そう言いながら、ボールを返す。
久しぶりに触れたバレーボールの感触を消し去るように、私はさっと手のひらを拭った。
「さっき、医務室に様子見に行ったけど…」
うそっ。やな予感…。
「寝すぎ。」
!! やっぱり…。
バツが悪くて苦笑いの私に、優はイタズラっぽく笑って。
「絵理香起こすと機嫌悪いし、声かけるのやめた。」
「…。」
爆睡してた自覚はあるだけに。
これ以上他の誰にもその姿を見られてないことを、私は祈った。
「熱けいれん…?」
優が少し眉をひそめる。
「うん…。熱中症の軽いのだって。福山に殺されかけたよ〜。」
と、私の冗談に2人で笑ってたら、パシッとファイルでアタマをたたかれた。
「いたっ…。あっ…福山。……トレーナー。」
「…ったく。お前が睡眠不足の上に、俺の指示どおり水分補給しなかったからだぞ!わかってんのか?」
「は〜い。」
優のプラシャツのすそを引っ張って、フォローを催促してみたけど、優は『お手上げ』って顔をする。
「今度、言うこと聞かなかったら、直接、塩、クチに放り込んでやるからなっ。」
「え゛〜。…っていうか、そもそもトレーニングがキツすぎなんじゃないの?」
と、文句を言うと、優が可笑しそうに言う。
「福山さんに面と向かってそんなこと言えるの、絵理香ぐらいだよ。」
あきれ顔の福山をそっちのけで、ふたりで笑って。
「じゃあ、行くわ。」
優は私の肩を軽くたたいて、コートへ戻っていく。
「がんばって。」
私の言葉に小さく右手をあげた。
福山が「今日は特別だ。見学しとけ。」と、私をベンチの隣に座らせる。
「宇佐美のこと、ちゃんと見とけよ。」
「は…はぁ?…なんで宇佐美さん?」
さっき、あんなトコ…ってべつに何もないんだけど!…見られただけに、宇佐美さんの名前に過剰反応する私。
「アイツ見張ってろって言っただろ?ちゃんと見てなきゃ何かあってもわかんねぇぞ。」
あっ…、その話…か。
私はちょっとホッとした、…けど。
「ホントに私にやらせる気なの?」
「当たり前だ。もちろん、アイツの自主練にもつきあえよ。」
「え〜。うそっ!?」
「当然だろ。むしろそっちがメインだ。」
「朝練…も?」
福山の顔色をうかがうように覗き見る。
福山より、宇佐美さんより ──。
何より朝は苦手。
「それも当然。…っていいたいトコだけど、おまえ、朝はまるで役に立たないからなぁ…。」
福山があきれた顔で私を見やる。
はは…、よくご存知で。
「朝練は、山本につきあわせるか…。」
あきらめたように言って、福山は大きなため息をついた。
とりあえず、朝練の件にほっとしつつ。
見張ってろって言われてもなぁ…。
ぼんやり考えながら、宇佐美さんに視線を向ける。
その途端。
そのやわらかな手首から、次々に放たれるトスの美しい放物線に、私は目を奪われた。
つられて動かしかけた手を、自分の手で押さえつけて。
うつむいて固く瞳を閉じる。
何かを確かめるように、私はネイルの指先を1本づつなでたあと。
ずっとその手を握りしめていた。