SMELL
- Gray = Ringmarc -
彼女がくるくると働く度に、俺の煙草の匂いが微かに鼻をくすぐる。
長い艶やかな髪を耳にかけるとき。
逃げるナイトメア様を追いかけるとき。
先程の休憩のものだろうか。
それとも昨晩の寝室の…。
思い出して、口元が緩みそうになるのを必死に堪える。
…剣客たるもの、常に平静を保たなくては。
「…グレイ」
ナイトメア様がうんざりした声色で俺を呼ぶ。
「何でしょう、ナイトメア様」
余計なことは言わないで頂きたい、でないと薬を…。
ナイトメア様はうッと苦い顔をして、俯いた。
「………いや、何でもない」
「…そうですか」
彼女が不思議そうに俺達の顔を交互に見る。
知らなくていいんだ。
彼女が俺を大人だと思っているうちは。
俺の匂いを纏わせて、自分のものだと主張したい。
君がかっこいいと言ってくれた煙草は、そんな子供じみた独占欲の塊だなんて。