Story W

□PEACH's ダンジョン!
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桃。



「お帰りさ〜〜〜〜〜〜〜〜vV」
船着き場から下りると恋人が駆け寄ってくる。
丁度帰還時期が重なったのだろう、通信上でも、夢で見るのでも無い弾む存在に思わず顔が綻ぶ。
彼は、久し振りの逢瀬に私を抱きしめたそうにウズウズと肩を揺らしながら、それでも自分が嫌がるからと我慢して立っている。
「ラビ…。
…ただいまであるっ」
自然に滲む笑みで挨拶をすれば、ラビは我慢できずに胸に抱き着いて来た。
「わっ」
「逢いたかったさぁあぁあー――!!」
「ラ、ラビっ」
バランスを崩して水路に落ちそうになる。危ない、と思った瞬間横から手が伸びて来て、ぐい、と内側に引き上げられた。
どうやら船を岸に着け終えたファインダーの方が助けてくれたらしい。彼は、私は報告がありますので、と会釈をして去っていく。ラビの様子を見て気を使ってくれたのだろう。遠ざかる背中に謝辞を述べると、さっと振り向いてお辞儀を返された。
気恥ずかしくて赤面しながら、未だ胸元に張り付いているラビを剥がしにかかる。
意外に強力に回された腕を苦労して剥がせば、改めておかえり、と笑顔が向けられる。
怪我してない?と腕を取られ、うむと答えた。
「…?これ何?クロちゃん」
かさり、と手の中で袋が鳴った。そうだ、忘れていた。
「お土産である…下の街で、丁度売っていて」
袋の口を開き、二つの桃を取り出す。柔らかいピンクいろに、熟れている証の甘い甘い香り。
二人で食べようと、二つ。
そう言ったら、ラビは弾けるように笑い出した。
「馬鹿だなぁクロちゃん…オレが任務だったらどうしたんさ?」
「あ…」
全く考えていなかった。
間抜けた自分の行動に頭を掻けば、ラビはでも嬉しいさ、と笑ってくれる。
この場に帰ってからずっと笑いっぱなしのラビ。
それが何故だか無性に愛おしくて、私は思わずラビに桃を押し付けていた。
「た、食べてみるである!」
「…?うん、そうさね」
互いに一つづつ桃を手にして、階段に腰を下ろす。
誰もいない船着き場は静かで涼しく、逆に自分の頬の紅潮が目立つ気がして落ち着かない。
それでも、手袋を外して薄い皮を剥き、瑞々しい甘さに歯を起てれば、歯の奥が痛くなるほどの強い、けれど優しい甘さが口の中一杯に広がり、幸せだと感じる。
続けて二口目に移ろうとすると、隣のラビが全く手を付けていないのに気付いた。
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